刃物を研ぐ男

『刃物を研ぐ男』

フランシスコ・デ・ゴヤの『刃物を研ぐ男』（El Afilador）は、1808年から1812年の間に制作された作品で、スペインのロマン主義を代表する風俗画として知られています。この油彩画は、ナイフを研いでいる男の姿を描写しており、対作品である『水売り女』（La aguadora）と共に、現在ブダペスト国立西洋美術館に収蔵されています。

作品の概要

本作品には、研ぎ師の男が前傾姿勢でナイフを車輪状の砥石の上に置いている姿が描かれています。彼は注力して作業を行っており、右足は手押し車に乗せられています。砥石が高速で回転し、その熱が強調されるように、近くには赤い筆遣いがあります。また、研ぎ師の仕事をサポートするために、水が砥石の上に流れ落ちている様子も描かれています。

研ぎ師の白いシャツには、肘までまくり上げた袖と数個の外されたボタンが見え、肌が露出しています。彼は鑑賞者に気づき、まっすぐ見つめていますが、この視線には「忙しい仕事に没頭しているなか、邪魔をされた」ような表情が伺えます。この絵は、手作業の厳しさや職人の責任感を強く伝えています。

興味深いことに、この絵画は実際には以前のキャンバスの上に描かれたものであることが、X線撮影によって検証されています。この技術で明らかとなったことから、ゴヤの創造性や制作過程に対するこだわりがうかがえます。

また、作品の背景は平坦でニュートラルなもので、奥行きが感じられずほぼ抽象的です。このスタイルは、同じくゴヤの作品である『水売り女』でも見られます。これらと相まって、作品自体に現代的な外観と独自性を与え、多くの美術史家たちの関心を引きています。

特徴と解釈

『水売り女』とこの『刃物を研ぐ男』は、1812年にゴヤ家の財産目録に記載され、合わせて評価は300レアルとされていました。これは、後の作品『老女たち』（Las viejas）と同等の評価であり、他の大きな作品と同じように価値のあるものでした。このように、両作品はゴヤが自身のために描いたもので、彼の価値判断の高さを物語っています。

この作品は、ナポレオン軍との戦争における無名の英雄たちへのオマージュとも解釈されており、戦いに関与した人々を助ける役割を果たした研ぎ師たちに敬意を表していると言われています。ナイフは時に一般市民の唯一の武器であり、ゴヤの戦争描写にはナイフを持つ人々の姿が多く登場します。

来歴と影響

両作品は、ゴヤ家の所有していた1812年の財産目録に記載され、その後、オーストリアの駐スペイン大使であるアロイス・ヴェンツェル・フォン・カウニッツ＝リートベルクに購入されました。彼はそれらをニコラウス・エステルハージ王子に売却し、さらにエステルハージ王子はブダペスト国立西洋美術館へと譲渡しました。

さらに、1968年にはブダペスト国立西洋美術館を代表する作品として、『水売り女』と『刃物を研ぐ男』が切手デザインに採用されるなど、今でも広く知られています。

この作品は、ただの風俗画に留まらず、戦争の影響や人々の生活を考察させる幅広いメッセージを持ち、ゴヤの独自な視点を表現した重要な作品といえるでしょう。

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