分配器

分配器（ぶんぱいき）

分配器とは、一つの入力信号を受け取り、その信号を同じ内容のまま複数の出力へ送り出すための電子機器です。電気信号全般に対して用いられますが、特にテレビ放送のアンテナ信号や、映像・音声といったAV信号を複数の機器で共有したい場合によく利用されます。

アンテナ信号の分配

テレビアンテナで受信した放送信号を複数のテレビで見たい場合に使われるのが、アンテナ分配器です。アンテナが捉えた高周波の信号は、ケーブル（給電線）を通じて屋内に引き込まれます。この信号を二台以上のテレビに送る際、ケーブルを単純に二又などに分岐させただけでは、信号がうまく伝わらなかったり、テレビの映りが悪くなったりする可能性があります。これは、信号の通り道である回路の特性（インピーダンス）が乱れるためです。アンテナ分配器は、このインピーダンスのバランスを保ちながら、アンテナから来た信号を複数の出力端子へ均等に振り分ける役割を果たします。

AV信号の分配

ブルーレイレコーダーやゲーム機など、一台のAV機器から出力される映像や音声の信号を、複数のテレビやモニターへ同時に表示させたい場合に利用されるのがAV分配器です。HDMI分配器、コンポジット分配器など、扱う信号の種類に応じた様々なタイプがあります。複数のAV機器の信号を一つのモニターに切り替えて映す機器はAVセレクターと呼ばれ、分配器とは用途が異なりますが、中には複数の出力端子を持ち、分配機能も兼ね備えたAVセレクターも存在します。

信号の減衰と対策

分配器を使って信号を複数に分けると、それぞれの出力端子から出てくる信号のエネルギーは分配される数に応じて小さくなります。例えば、信号を二つに分ける（2分配）場合、それぞれの信号のエネルギーは理論上半分になります。テレビ放送のように受信する電波が十分強いエリアであれば、分配による信号の減衰があっても問題なく視聴できることがほとんどです。

しかし、電波の弱い地域でアンテナ信号を分配する場合や、学校、病院、マンションなどで数百台規模のテレビに信号を分配する場合など、多くの機器に分配したり、信号が元々弱かったりする状況では、分配による減衰が無視できなくなります。このような場合、信号強度を補うために「受信ブースター」と呼ばれる信号増幅器を組み合わせて使用します。AV信号の場合も同様で、特に長いケーブルを使ったり、多数の機器に分配したりする際には、信号の減衰を防ぐために増幅機能を持つ分配器（映像技術分野では映像分配増幅器、VDAなどと呼ばれる）が用いられることがあります。

分配器と関連する機器

分配器と似ている、あるいは混同されやすい機器に「分波器」「混合器」「分岐器」があります。

分波器（デュープレクサ、トリプレクサ）: 異なる周波数帯の信号を一本のケーブルで伝送されてきた際に、それぞれの周波数帯の信号に分離する機器です。例えば、地上デジタル放送とBS/CS放送の信号を分離する際に使われます。また、携帯電話や無線通信の分野では、送受信の信号を分離・結合する機能を持つ機器を指すこともあります。分配器が信号を同じ内容のまま分けるのに対し、分波器は周波数で信号を分離します。適切な設計であれば、分波器による信号の損失は分配器に比べて非常に小さいという違いがあります。

混合器: 分波器とは逆に、異なる周波数帯の信号を一本のケーブルにまとめる機器です。

* 分岐器（ぶんきき）: アンテナ配線などで使われ、「スプリッタ」とも呼ばれます。分配器が信号を等しい割合で分けるのに対し、分岐器は幹線から支線へ信号の一部を分ける、というように非対称な割合で信号を分配します。共同視聴設備などで個別の部屋へ配線を分ける際などに利用されます。

分配器を選ぶ際や使用する際は、扱う信号の種類（アンテナかAVか、端子の形状など）、分配する数、そして信号の減衰による影響を考慮し、必要に応じてブースターなどの関連機器と組み合わせて利用することが重要です。

関連項目：分波器、混合器、インピーダンス、定在波比、高周波回路

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