列車運行会社 (イギリス)

イギリスの列車運行会社：民営化から現在まで

1993年のイギリス国鉄民営化は、同国の鉄道システムに大きな変化をもたらしました。その中心となるのが、旅客列車の運行を担う列車運行会社（Train Operating Company; TOC）です。TOCは、ナショナル・レールという共通ブランドの下、多様な形態で営業を展開しています。

TOCの運営形態

TOCは大きく分けて3つの形態に分類されます。

1. フランチャイズ: 運輸省（または地方自治体）から一定期間、特定路線の運行権を委託される契約形態です。多くのTOCはこの形態で運営されています。競争入札が行われ、事業者は運行権獲得を目指します。契約期間終了時には再入札が行われます。
2. コンセッション: 地方自治体（ロンドン交通局など）が、運行条件を詳細に定め、事業者に一定の金額を支払う契約形態です。ロンドン近郊の路線などに多く見られます。事業者は、自治体が求めるサービス水準を維持することが求められます。
3. オープンアクセス: フランチャイズ契約などに基づかず、運行枠を個別に買い取って列車を運行する事業者です。独自の路線網を持つわけではなく、既存路線を利用して営業します。競争力の高いサービス提供を目指します。

インフラと車両の所有

イギリスの鉄道インフラ（線路、信号設備など）は、ネットワーク・レールが所有・管理しています。TOCはインフラをネットワーク・レールから借りて運行を行います。車両についても、多くの場合車両リース会社が所有し、TOCはリース契約によって車両を利用します。駅の運営も、ネットワーク・レールが所有するものの多くをTOCがリース契約によって運営しています。ただし、主要駅の一部やロンドン地下鉄の一部駅などは、ネットワーク・レール直営または委託運営となっています。

主要なTOCと歴史

イギリス国鉄民営化後、多くの事業者がTOCとして誕生しました。初期は、旧国鉄の部門が分割され、その後、民営化された際に様々な企業が運行権を獲得しました。多くの買収や合併を経て、現在に至っています。

民営化直後は、旧国鉄経営陣が一部出資する企業も多くありましたが、近年は海外企業の参入が目立ちます。ファーストグループ、ゴヴィア、アリーヴァといった企業が複数のTOCを傘下に持つなど、事業の再編も頻繁に行われてきました。また、経営不振を理由に運行権が取り消されたTOCもあり、最終手段運行事業者（政府が一時的に運行を引き継ぐ）が介入するケースも発生しています。

2000年代以降、特に注目すべき点は、オープンアクセス事業者の増加です。ユーロスターやヒースロー・エクスプレスといった国際列車や空港アクセス列車は、この形態で運行されています。これらの事業者は、独自のブランド戦略やサービスで市場を開拓しています。

近年は、政府によるフランチャイズ契約の一時停止や管理契約への移行など、政策的な変化もTOCの運営に影響を与えています。これは、COVID-19パンデミックに伴う利用者数減少が大きな要因でした。

北アイルランドの鉄道

1993年鉄道法は北アイルランドの鉄道を対象としていないため、北アイルランドには同法の定義によるTOCは存在しません。北アイルランドの鉄道は、公社の北アイルランド運輸持株会社の傘下にある北アイルランド鉄道によって運営されています。

TOC間の連携

TOC間の連携を促進するために、レール・デリバリー・グループ（旧・列車運行会社協会）が存在します。同グループはナショナル・レールのブランド名やロゴの使用管理、全国の時刻表や乗換案内の提供、共通の運賃制度の運用など、TOC全体の運営を支援する役割を担っています。

まとめ

イギリスの鉄道は、民営化以降、TOCによって多様な形態で運営されています。フランチャイズ、コンセッション、オープンアクセスといった運営形態、そして企業間の買収・合併、政府政策の変化など、複雑な歴史と現状を理解することが、イギリス鉄道システムを理解する上で重要となります。今後も、競争と規制のバランス、そして技術革新がイギリス鉄道の未来を形作っていくでしょう。

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