別れの時

「別れの時 (I've Had Enough)」：ウイングスによる1978年のシングル

「別れの時」(I've Had Enough)は、1978年に著名なブリティッシュ・ロックバンド、ウイングスによって公式に発表された楽曲です。この作品は、単に彼らのアルバムに収録された楽曲としてだけでなく、同時期にシングル盤としても一般市場に向けてリリースされました。これは、当時のウイングスの活動における主要なプロモーション戦略の一環であり、アルバムから特定の楽曲を選び出し、リスナーに広く届けることを目的としていました。

この「別れの時」という楽曲は、ウイングスが1978年に発表したスタジオ・アルバム『ロンドン・タウン』に収録されています。シングル盤としてリリースされた際、この曲はアルバム『ロンドン・タウン』からの楽曲群としては、2枚目のシングルカット作品として位置づけられました。これは、アルバム『ロンドン・タウン』の魅力を異なる角度からリスナーに提示するための重要な試みでした。オリジナルアルバム『ロンドン・タウン』のトラックリストにおいては、「別れの時」は8番目の楽曲として配置されています。アルバム全体の流れや構成の中で、この位置に「別れの時」が選ばれたことには、何らかの意図があったと考えられます。

シングルB面曲「子供に光を」の特異性

「別れの時」シングルのカップリング、すなわちB面には、「子供に光を」(Deliver Your Children)と題された楽曲が収録されています。この「子供に光を」もまた、シングルA面曲と同様に、同年にリリースされたアルバム『ロンドン・タウン』に収められている楽曲です。アルバム『ロンドン・タウン』は、ウイングスの多様な音楽性を反映した作品であり、「子供に光を」はそのアルバムのサウンドの幅広さを示す一例と言えるでしょう。

このB面曲「子供に光を」に関しては、特に注目すべき点がいくつか存在します。まず、この楽曲はウイングスの実質的なリーダーであり、主要なソングライターであるポール・マッカートニー単独の作品ではありません。公式クレジットによれば、この曲はポール・マッカートニーと、バンドにおいてギタリストやボーカリストとして重要な役割を担っていたメンバー、デニー・レインとの共作となっています。ウイングスの楽曲の大部分がポール・マッカートニーの作品である中で、デニー・レインが作曲面で深く関与した楽曲がシングルの主要な位置（この場合はB面）に収められるという事実は、バンド内部におけるメンバー間の共同作業や、デニー・レインのソングライターとしての貢献が正当に評価されていたことを示唆しています。

さらに、この「子供に光を」の最も特筆すべき点の一つは、リードヴォーカルをデニー・レイン自身が担当していることです。ウイングスのライブパフォーマンスやレコーディングにおいて、デニー・レインはポール・マッカートニーと共にリードヴォーカルを担当することも少なからずありましたが、彼のリードヴォーカル曲が公式にリリースされるシングルの収録曲となるケースは、それほど頻繁に見られることではありませんでした。

デニー・レインがリードヴォーカルを務める楽曲がウイングスのシングルに収録されるという出来事は、ウイングスの長い活動期間を通じても限られた例しかありません。具体的に遡ると、デニー・レインのヴォーカル曲がウイングスのシングルのB面に収められたのは、1973年に発表されたシングル「007 死ぬのは奴らだ」（Live and Let Die）のカップリング曲であった「アイ・ライ・アラウンド」（I Lie Around）以来のことでした。これは実に約5年の期間を経て実現した事例であり、その間のウイングスのシングル（例えば、「バンド・オン・ザ・ラン」「ジェット」「ジュニアズ・ファーム」など、ポールがリードヴォーカルを務めたヒット曲多数）には見られなかったことです。この事実は、「子供に光を」が楽曲そのものの魅力に加えて、ウイングスにおけるデニー・レインのヴォーカルの存在感や、彼の貢献を示すという点でも特別な意味合いを持っていたことを示唆しています。

シングル収録曲

1978年にリリースされたウイングスのシングル「別れの時」(I've Had Enough)の収録曲構成は以下の通りです。

A面: 別れの時 (I've Had Enough)
B面: 子供に光を (Deliver Your Children)

このシングルは、ウイングスの円熟期ともいえる『ロンドン・タウン』のサウンドを体現するとともに、ポール・マッカートニーとデニー・レインというバンドの中核をなす二人のメンバーの音楽的な連携、そしてデニー・レインの多才な一面を示す貴重な記録として、現在もファンや研究者によって高く評価されています。

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