刺胞

刺胞（しほう）とは

刺胞とは、クラゲやイソギンチャクなどの刺胞動物が持つ特殊な細胞小器官で、毒針のような役割を果たします。袋状の構造をしており、内部には刺糸と呼ばれる細長い繊維が格納されています。この刺糸は、刺激を受けると瞬時に反転して外部に射出され、獲物に突き刺さったり、絡みついたりすることで、獲物を捕獲したり、外敵から身を守ったりするのに利用されます。

刺胞の構造

刺胞は、一つの細胞内に一つだけ存在する細胞小器官です。細胞内では楕円形の袋状をしており、この袋を刺胞嚢と呼びます。刺胞嚢の中には、刺糸が折りたたまれた状態で収納されており、刺胞嚢の先端には蓋があります。刺激を受けると、この蓋が開き、刺糸が反転しながら射出されます。刺糸には細かい棘が螺旋状に並んでおり、この棘によって標的にしっかりと固定されます。

刺胞の種類と役割

刺胞には、いくつかの種類があり、それぞれ異なる役割を持っています。

貫通刺胞：刺糸の先端が鋭く尖っており、標的に突き刺さることで毒液を注入します。
捲着刺胞：刺糸が螺旋状に巻いており、標的に絡みつくことで動きを封じます。
* 粘着刺胞：刺糸に粘着性があり、標的にくっつくことで捕獲を補助します。

これらの刺胞は、刺胞動物の種類や、体の部位によって使い分けられています。また、ヒドロ虫類や花虫類など、分類群によって特殊な刺胞を持つ場合もあります。

刺胞の射出メカニズム

刺胞の射出は非常に高速で、その詳細なメカニズムはまだ解明されていない部分も多くあります。研究によると、刺胞嚢内部の浸透圧が非常に高くなっており、この圧力差と、刺胞嚢の収縮によって刺糸が射出されると考えられています。また、刺糸が強く撚られて収納されていることも、射出の際のエネルギーに寄与していると考えられています。ある研究では、刺糸が標的に突き刺さる際の加速度は重力加速度の54万倍にも達すると報告されています。

刺胞の射出調節

刺胞は、獲物や外敵に触れたときに発射されます。これは、物理的な刺激や、化学的な刺激によって誘発されると考えられています。刺胞細胞は、助細胞と呼ばれる細胞と複合体を形成している場合があり、この助細胞が刺激を感知して刺胞に信号を送ることで、刺糸が射出されます。また、神経を介して他の刺胞に刺激を伝えることで、一斉に刺糸が射出される場合もあります。

盗刺胞

一部の生物は、刺胞動物を捕食する際に、刺胞を自分の体内に取り込み、それを防御のために利用します。これを盗刺胞と呼びます。ミノウミウシや一部の渦虫などで観察されています。

カシオソーム

サカサクラゲなど、一部のクラゲは、光合成ができなくなると、カシオソームと呼ばれる粘性の細胞塊を分泌します。このカシオソームには多数の刺胞が含まれており、周囲の生物に毒をばらまくことで狩りを行うと考えられています。

類似の構造

刺胞に似た構造として、極嚢という細胞内小器官があります。これは、かつて胞子虫と呼ばれていた生物群が持っており、長い糸を細胞外に突出させます。ミクソゾアというグループでは、極嚢と刺胞の類似性から、刺胞動物との関連性が示唆されています。

刺胞は、刺胞動物にとって重要な武器であり、生存戦略において重要な役割を果たしています。その複雑な構造と機能は、生物学において興味深い研究対象となっています。

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