前川佐美雄

前川 佐美雄（まえかわ さみお）の生涯と業績

前川佐美雄は1903年2月5日に奈良県南葛城郡忍海村で生を受けた昭和期の著名な歌人である。彼は、妻の前川緑や長男の前川佐重郎も歌人として知られており、文学の家系に育った。

彼の父親は佐兵衛、母親は久菊で、祖父の佐重良は一族の長老として広く影響を持っていた。幼少時から歌を愛し、小学校六年生のときに初めて短歌を作る。14歳で奈良の儒者、越智黄華の漢学塾で学び、1921年には下淵農林学校を卒業し、同年竹柏会に参加して短歌活動をスタートさせる。

佐美雄は1922年に東京へ移り、東洋大学の専門部に入学。その後、木下利玄や石槫茂らと共に「心の花」の活動に関与し、新しい歌風を模索し始める。1925年に卒業後、代用教員として勤務するが、文学への情熱から3ヶ月で辞職して上京を果たす。以降、彼は短歌の世界に身を投じ、マルクス主義やシュールレアリスムといった新しい潮流に刺激を受ける。

1927年、土屋文明との論争を経て大熊信行の「まるめら」に参加、1928年には新興歌人連盟の結成に関わるものの、内部対立が生じ、この団体は同年12月に解散。1929年には「尖端」を創刊し、プロレタリア短歌集を刊行したが発禁に遭遇し、その後プロレタリア歌人同盟に参加しる。彼のプロレタリア的な志向はこの年限りで消滅し、1930年には第一歌集『植物祭』を発表。

『植物祭』はダダイスム的な要素を含み、モダニズム短歌の先駆者として評価された。口語表現を取り入れ、革新的なスタイルで歌壇に衝撃を与えた。1931年には同人と共に「短歌作品」を発行し、その後も多くの雑誌に参加し、歌壇での存在感を強める。1932年には父が他界し、奈良に戻るが、短歌活動は続け、「カメレオン」を創刊するなど多方面で創作を続けた。その後、彼は1941年に「日本歌人」を廃刊しながらも、新たな文学活動を展開していく。

佐美雄は戦中、戦後の混乱の中でも歌を詠み、『日本し美し』や『金剛』といった戦争賛歌を発表していたが、その後戦争責任を問われながらも評価が変わっていく。1950年には「日本歌人」を復刊し、歌壇の中での地位を強化していった。

彼の後半生では、1970年に神奈川の茅ヶ崎に移住し、作品を数多く刊行し続けた。1975年に勲四等旭日小綬章を受賞し、1989年には日本芸術院の会員となり、1990年に逝去するまで活躍を続けた。彼の死後も、その作品や業績は短歌界で高く評価され続けており、息子の佐重郎が「日本歌人」を引き継ぎ、彼の名声は今もなお生き続けている。

主な著書

• - 第1歌集: 植物祭 (1930)
• - 選集: くれなゐ (1939)
• - 第2歌集: 大和 (1940)
• - 合同歌集: 新風十人 (1940)
• - 第3歌集: 白鳳 (1941)
• - 第4歌集: 天平雲 (1942)
• - 第5歌集: 春の日 (1943)
• - 第6歌集: 頌歌 日本し美し (1943)
• - 第7歌集: 金剛 (1945)
• - 第10歌集: 捜神 (1964)

佐美雄の生涯は、常に新しい表現を求めて挑戦し続けた文学者の歩みそのものであり、彼の作品は後世に多大な影響を与え続けている。

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