前田芳實

前田 芳實（まえだ よしざね）氏は、1945年1月生まれの日本の農学者です。専門は畜産学であり、特に家畜や家禽の遺伝子および蛋白質制御に関する研究分野において、顕著な業績を残しました。鹿児島大学においては、長年にわたり教育・研究活動に携わった後、大学運営の要職を歴任し、第12代学長として大学の発展に貢献しました。現在は同大学の名誉教授の称号を得ています。

経歴と学術的貢献

前田氏は、1963年3月に鹿児島県立甲南高等学校を卒業しました。高校時代には生物部に所属し、すでに自然科学への関心を示していました。同年4月、鹿児島大学農学部に新設された畜産学科に第1期生として入学。学生時代から積極的に学びに取り組み、自主研究会を立ち上げるなど、探究心を深めました。1967年3月に同学科を卒業後、さらに学問を究めるため大学院へ進学。1969年3月には鹿児島大学大学院農学研究科畜産学専攻を修了し、農学修士号を取得しました。

大学院修了と同時に、前田氏は鹿児島大学農学部の助手に任官し、研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。1981年10月には助教授に昇任。この間、自身の研究テーマを深く掘り下げ、1977年3月には論文「ウズラの蛋白質多型現象に関する遺伝育種学的研究」により、九州大学から農学博士号を取得しました。また、国際的な視野を広げるため、1978年9月から1979年9月にかけては、アメリカ合衆国のジョージア大学にてリサーチ・アソシエイトとして研鑽を積みました。さらに、1997年からはミシガン州立大学の客員教授を兼任するなど、海外の研究機関との交流も積極的に行いました。

前田氏の研究の中心は、家禽における蛋白質代謝制御の遺伝学的解析とその育種への応用でした。この分野での優れた研究成果は高く評価され、1994年度には日本家禽学会賞を受賞しています。また、1996年には家禽科学分野における国際的な賞であるWorlds Poultry Science Association Awardを受賞するなど、その学術的貢献は国内外で広く認知されました。

地元である鹿児島県の畜産振興にも深い関心を寄せ、県の主要産業である肉用牛に関する研究や、希少な在来馬であるトカラ馬の生態調査など、地域に根差した研究活動も展開しました。

鹿児島大学での要職歴任と学長時代

1994年7月に鹿児島大学農学部の教授に昇任した後も、前田氏は精力的に活動を続けました。教授在任中には、大学内の運営にも深く関与し、様々な要職を歴任しています。具体的には、遺伝子実験施設長（2000年4月～2002年3月）、生命科学資源開発研究センター長（2002年4月～2004年3月）、農学部付属農場長（2005年4月～2006年3月）などを務め、大学の研究・教育基盤の強化に尽力しました。また、2006年4月から2009年3月にかけては、農学研究科長および農学部長として、学部・研究科の運営を主導しました。

2009年3月に教授職を退任した後も、前田氏は大学の中枢に関わり続けました。2009年4月からは鹿児島大学の理事に就任し（2013年3月まで）、大学全体の経営に携わりました。そして、2013年4月1日からは第12代鹿児島大学学長に就任し、2期6年間にわたり大学の最高責任者としてリーダーシップを発揮しました。学長としては、教育研究の質の向上、地域社会との連携強化、国際化の推進など、多岐にわたる大学改革や運営に努めました。2019年3月31日をもって学長を退任しました。

受賞と栄誉

長年にわたる研究、教育、大学運営への貢献に対し、前田氏には多くの栄誉が与えられています。学長退任後の2019年には、鹿児島大学より名誉教授の称号が授与されました。また、学会活動においても重要な役割を担い、日本畜産学会の理事なども務めています。学術賞としては、前述の日本家禽学会賞やWorlds Poultry Science Association Awardに加え、2010年度には日本家禽学会功労賞を受賞。さらに、2017年度には、家畜・家禽のタンパク質およびDNA多型、筋肉タンパク質代謝制御に関する研究推進と後進育成の功績が称えられ、日本畜産学会功労賞（西川賞）が授与されました。これらの功績に加え、2021年には瑞宝中綬章を受章し、国からもその貢献に対して高い評価が与えられました。

前田芳實氏は、畜産学分野における先駆的な研究活動、熱心な教育を通じた後進の育成、そして鹿児島大学における要職および学長としての卓越したリーダーシップを通じて、日本の農学・畜産学の発展と地域社会、そして大学の振興に多大な貢献を果たした人物です。

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