前田金五郎

近世文学研究の巨星、前田金五郎

1920年9月11日、静岡県静岡市に生まれた前田金五郎は、日本の国文学、特に近世文学、中でも井原西鶴研究において卓越した功績を残した学者です。2013年2月21日、消化器出血のため、92年の生涯を閉じました。

東京文理科大学卒業後、専修大学にて助教授、教授を歴任し、1991年に定年退官、名誉教授となりました。その博識ぶりは、同時代の著名な国文学者である小西甚一氏をして「怪物」と評されるほどでした。単なる知識の蓄積にとどまらず、深い洞察力と鋭い分析力によって、近世文学、とりわけ井原西鶴の作品群を多角的に解明し、新たな解釈を提示することに貢献しました。

膨大な研究成果

前田金五郎氏の研究活動は、数々の著作物によって裏付けられています。代表的な著書として、井原西鶴作品を網羅的に解説した注釈書シリーズが挙げられます。『好色一代男全注釈』『西鶴大矢数注釈』『好色五人女全注釈』『好色一代女全注釈』など、西鶴作品を深く理解するための重要な研究書として高く評価されています。これらの注釈書は、単なる原文の解説にとどまらず、西鶴の思想、社会背景、そして作品に込められた様々な意図を丁寧に解き明かし、読者の理解を深めることに大きく貢献しました。

さらに、『西鶴語彙新考』では、西鶴作品に用いられている言葉の用法や意味を詳細に分析し、当時の言葉遣いや社会情勢を反映した貴重な研究成果を示しています。『西鶴発句注釈』『西鶴連句注釈』では、西鶴の俳諧や連句への造詣の深さを示し、多様な側面から西鶴の世界を探求しました。

これらの西鶴研究に加えて、『近世文学雑考』『近世文学雑記帳』といった、近世文学全般を論じた著作も発表。幅広い知識と深い洞察に基づいた、多くの示唆に富む考察が展開されています。晩年には、自身の回想録『思い出雑記帳』を著し、学者としての歩みだけでなく、人生観や社会への視点も示しました。

共同研究と校注への貢献

前田金五郎氏は、単独での研究活動だけでなく、共同研究や校注にも積極的に携わりました。『岩波古語辞典』（大野晋、佐竹昭広氏と共編）は、日本の国語学研究に多大な貢献を果たした重要な辞書であり、その編纂に参加したことは、氏の国語学への造詣の深さを示しています。また、数多くの古典作品、特に井原西鶴の作品の校注にも携わり、正確で信頼性の高いテキストを提供しました。これらは、後の研究者たちが近世文学を研究する上で、貴重な基礎資料となっています。

「怪物」と称された博識

前田金五郎氏は、その類まれな博識から「怪物」と称えられました。これは、単に知識量が多いという意味ではなく、深い知識を駆使して、複雑な問題を解き明かす洞察力、そして新たな知見を生み出す創造性を兼ね備えていたことを示しています。その圧倒的な知識と鋭い分析力は、多くの研究者に刺激と影響を与え、近世文学研究の発展に大きく貢献しました。

前田金五郎氏の研究は、後世の研究者たちに多大な影響を与え続け、近世文学研究の礎を築いたと言えるでしょう。その功績は、これからも高く評価され続けることでしょう。

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