前駆細胞

前駆細胞とは

前駆細胞（progenitor cell）とは、幹細胞から発生し、体を構成する最終分化細胞へと分化する能力を持つ細胞のことです。幹細胞は前駆細胞を経て最終分化細胞へと分化するため、前駆細胞は幹細胞と最終分化細胞の中間に位置する細胞と捉えられます。

ただし、前駆細胞の明確な定義については、統一された見解が得られていないのが現状です。分化能に制限のある成体幹細胞を前駆細胞と同一視する場合や、多能性を持つ胚性幹細胞のような幹細胞と比較して、多くの成体幹細胞を前駆細胞とみなすべきという議論もあります。

前駆細胞の特徴

前駆細胞の多くは、オリゴポテント（少能性）として扱われます。これは、前駆細胞の分化能力が大きく限られていることを意味し、この点で幹細胞とは区別されます。しかし、前駆細胞は幹細胞から最終分化細胞へと至る過程で現れるため、分化中の幹細胞と捉えることもできます。

前駆細胞の分化能力は、元となる幹細胞や発生した部位に依存します。また、幹細胞と比較して自己複製能力も限定的であるという違いがあります。

前駆細胞の機能

前駆細胞は、主に古くなった組織や傷ついた組織の再生に利用されます。前駆細胞は体内を移動し、成長因子やサイトカインなどの刺激を受けて必要な組織へと移動します（走化性）。これらの刺激によって細胞分裂と分化が活性化され、組織の再生が促進されます。ただし、全ての前駆細胞が移動できるわけではありません。

前駆細胞の利用

前駆細胞は、幹細胞と同様に再生医療の重要な技術として研究・利用されています。幹細胞は高い分化能力を持つため、そのまま移植しても体内（in vivo）で狙った細胞のみへと分化させることは困難です。一方、幹細胞を体外（in vitro）で分化させた後に患者に移植する方法では、最終分化細胞の組織への定着に問題が生じることがあります。

そのため、幹細胞を目的の細胞の前駆細胞まで分化させることで、細胞の柔軟性を保ちつつ、分化の方向性を制御する手法が用いられています。

前駆細胞の例

前駆細胞を他の細胞から区別するための同定は、細胞表面のマーカーによって行われます。形態学的な特徴では区別できません。

衛星細胞: 筋肉に見られ、筋肉細胞の分化や損傷の修復に重要な役割を果たします。
骨髄間質細胞・表皮基底層細胞: 約10%が前駆細胞ですが、高い分化能力と自己再生能力を持つため、幹細胞に分類されることも多いです。
骨膜: 骨芽細胞や軟骨芽細胞に分化できる前駆細胞を含みます。
膵臓前駆細胞: 最も研究されている前駆細胞の一つで、1型糖尿病の治療研究に用いられています。
血管前駆細胞・血管内皮前駆細胞: 骨折や創傷治癒の研究に重要な役割を果たします。
芽球: B細胞やT細胞の発生に関与し、免疫応答に重要な役割を果たします。

これらの前駆細胞は、特定の組織や細胞の再生に特化した能力を持ち、再生医療や疾患治療において注目されています。

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