分化能

細胞の分化能力：全能性から単能性まで

細胞には、様々な種類の細胞に分化する能力、すなわち分化能があります。この分化能は、細胞の種類によって大きく異なり、その能力の度合いによって、全能性、多能性、多能性、寡能性、単能性の5段階に分類されます。

1. 全能性

全能性細胞は、単一の細胞から、胚体外の組織を含む個体のあらゆる細胞に分化し、一個体を形成できる能力を有しています。受精卵や胞子が代表的な例です。植物細胞では、挿し木やカルス培養のように、脱分化によって全能性を再獲得することが知られています。ヒトの発生においても、受精卵は全能性細胞として発生が始まり、初期の細胞分裂を経て、やがて多能性細胞へと分化していきます。

2. 多能性 (Pluripotency)

多能性細胞は、三胚葉（内胚葉、中胚葉、外[[胚葉]]）のいずれの系統にも分化できる能力を持つ細胞です。哺乳類では、胚盤胞の内部細胞塊がこれに該当し、Oct4、Sox2、Nanogといった転写因子がその能力の維持に重要な役割を果たしています。多能性幹細胞はあらゆる細胞型を生み出すことが可能ですが、それ自体では一個体にはなりません。人工的に多能性幹細胞（iPS細胞）を作成する技術も開発されており、再生医療分野での応用が期待されています。ただし、iPS細胞は高い発癌性を持つため、臨床応用には安全性の確保が課題となっています。

3. 多能性 (Multipotency)

多能性細胞は、複数の細胞系統に分化できるものの、その種類は限定されています。造血幹細胞はその代表的な例で、様々な種類の血液細胞に分化できますが、神経細胞などには分化できません。近年の研究では、分化した細胞でも、分化転換という現象によって、異なる細胞型へと変化することができる可能性が示唆されています。この発見は、細胞の分化の可塑性について新たな知見を与え、再生医療への応用にも繋がる可能性を秘めています。

4. 寡能性

寡能性細胞は、数種類の細胞型にのみ分化できる能力を持つ細胞です。リンパ芽球や骨髄系前駆細胞などがその例として挙げられます。血管幹細胞は、血管内皮細胞と平滑筋細胞のどちらにも分化できますが、それ以外の細胞には分化できません。

5. 単能性

単能性細胞は、特定の細胞型にしか分化できない能力を持つ細胞です。皮膚細胞や肝細胞などがその例であり、自己複製能力を持つものの、他の細胞型には分化しません。肝細胞の再生能力は、この単能性に由来するものです。

まとめ

細胞の分化能は、全能性から単能性まで段階的に変化します。それぞれの段階の細胞は、固有の分化能力と特性を持ち、発生や組織再生において重要な役割を担っています。近年、幹細胞研究の進歩に伴い、細胞の分化能に関する理解は深まりつつあり、再生医療や疾患治療への応用が期待されています。しかしながら、iPS細胞のような人工多能性幹細胞の安全性の問題や、分化転換のメカニズムなど、未だ解明されていない部分も多く、更なる研究が求められています。

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