副島道正

副島 道正（そえじま みちまさ）は、明治から昭和時代にかけて、華族、実業家、そして国際オリンピック委員会（IOC）委員として多方面で活躍した人物です。伯爵の称号を持ち、特にスポーツ界においては、幻となった1940年東京オリンピックの招致に大きな功績を残しつつも、その中止決定にも深く関わりました。

明治4年（1871年）10月14日、東京に生まれました。父は明治維新の元勲として知られる伯爵 副島 種臣です。イギリスへ留学し、ケンブリッジ大学で学び、明治27年（1894年）に卒業しました。帰国後、明治28年（1895年）には宮内省に入り、皇太子（後の大正天皇）に仕える東宮侍従や式部官などを歴任し、皇室に近侍しました。

宮内省勤務の傍ら、あるいはその後、実業界にも進出しました。朝鮮の主要紙であった京城日報の社長を務めたほか、日英水電や早川電力といった企業の役員も務め、経済界でもその手腕を発揮しました。政治の世界では、大正7年（1918年）7月10日から貴族院議員を務め、最初の任期は7年間でした。

副島道正の功績として特筆されるのは、1940年の第12回夏季オリンピック競技大会の東京開催招致活動です。昭和9年（1934年）5月、アテネで開催されたIOC総会でIOC委員に選ばれた彼は、招致委員会の中心メンバーとなります。特に重要な役割を果たしたのが、ライバル候補都市であったイタリアのローマとの交渉でした。昭和10年（1935年）、副島は杉村陽太郎とともにローマへ渡り、イタリアの最高指導者ベニート・ムッソリーニと会談しました。健康上の理由で会談は遅れましたが、この会談を通じてローマ市の立候補撤回を取り付けたことが、翌昭和11年（1936年）の東京招致成功に大きく貢献しました。

東京でのオリンピック開催が決定したのもつかの間、その後の国際情勢は緊迫度を増しました。昭和12年（1937年）に日中戦争が勃発し、長期化するにつれて、日本の戦時体制は強化されていきます。このような状況下で、巨額の費用と人員を要するオリンピック開催は困難との声が高まりました。副島は、かつて招致に尽力した人物でありながら、皮肉にも1940年の東京大会、そして同時に決定していた札幌での冬季大会の開催返上を主導する立場となりました。昭和13年（1938年）7月15日、閣議は東京・札幌両オリンピックの開催返上を正式に決定しました。副島はこの決定に深く関わった中心人物の一人でした。

貴族院議員としては、昭和11年（1936年）8月1日に補欠選挙で再選され、昭和22年（1947年）5月2日の貴族院廃止まで在任し、終戦後の激動期も国政に携わりました。昭和23年（1948年）10月13日に76歳でこの世を去りました。墓所は青山霊園にあります。没後長い年月を経た令和3年（2021年）には、日本バスケットボールの発展に貢献した人物として、日本バスケットボール殿堂入りを果たしています。これは、実業家や政治家としてだけでなく、スポーツ振興にも深い関心を持っていた彼の側面に光を当てる出来事でした。

私生活では、娘の順子が小説家志賀直哉の弟・志賀直三と結婚しています。また、姉の貞子は諸岡正順に嫁ぎ、諸岡幸麿を産んでいます。位階は最終的に正二位に叙せられ、その他にも紀元二千六百年祝典記念章などの栄典を受けています。彼の生涯は、近現代日本の激動期における華族、実業家、政治家、そして国際スポーツ界の関与者としての多様な側面を示しています。

NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』（2019年）では、塚本晋也氏が副島道正役を演じました。

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