劇画漂流

劇画漂流（げきがひょうりゅう）

『劇画漂流』は、日本の漫画家辰巳ヨシヒロによる自伝的な漫画作品です。彼は、劇画という言葉の創造者であり、劇画工房の中心となって日本の劇画ムーブメントをけん引してきました。この作品は、彼自身の誤解された劇画のイメージを払拭したいという意図から生まれたものです。

物語の流れ

この物語は、辰巳ヨシヒロと彼の兄である桜井昌一の幼少期から始まり、彼らが漫画家を目指す姿が描かれます。物語の中では、「漫画」とは異なるシリアスな作風を持つ「劇画」の誕生や、劇画工房の設立、そしてその後の彼らの活動が長大な青春ストーリーとして展開されます。内容は1948年から1960年までを中心に展開しており、作品の終わりにはその時代の描写で締めくくられています。

作品中で、辰巳は「勝見ヒロシ」として登場し、兄の桜井昌一も本名ではなく「勝見興昌」という名前で描かれていますが、他の漫画家や出版関係者は実名が使用されています。これにより、実際の出来事とリンクしたリアリティを持った作品になっています。

連載の経緯

『劇画漂流』は、1995年にまんだらけのカタログ誌『まんだらけマンガ目録』8号から連載がスタートし、1998年から新たに創刊された『まんだらけZENBU』に掲載されることになりました。その後、2006年には連載が終了し、全48話が発表されました。この二つの季刊誌での連載は、実に12年もの長きにわたるものでした。特に重要なのは、桜井昌一が発表した『僕は劇画の仕掛け人だった』が参考資料となっており、連載時には原案料が支払われた上でクレジットにも名を連ねています。

辰巳ヨシヒロは、この作品を2003年に亡くなった兄へのレクイエムだと捉えており、執筆の過程には当時の関係者からの取材も含まれていました。作品中には、その取材で得た資料が随所に組み込まれています。

出版に関する情報

2008年には、青林工藝舎より全2巻として「劇画生誕50周年記念出版」としてリリースされました。この単行本化も、まんだらけでの連載担当者である浅川満寛によるもので、連載が終了した背景にはまんだらけ側の事情もあったようです。また、辰巳は続編の構想を持っていたものの、実現には至らず、結果的にカナダの出版社からその後の執筆についても問い合わせがあったものの、その詳細は不明とされています。

2010年には、漫画ではない自伝『劇画暮らし』が本の雑誌社から発売されました。当初は別のタイトルで出版される予定でしたが、出版社の倒産により一度は頓挫。しかし、この作品には『劇画漂流』で描かれていない1960年以降の出来事が記されている一方、作品内の女性関係に関するエピソードは妻の意見で大幅に削除されました。

海外での展開

作品の連載終了後、カナダの出版社から英語版出版の話が持ち上がり、2009年には『A Drifting Life』として刊行されました。その後、インドネシア語版やフランス語版、ドイツ語版も登場し、国際的な評価を受けました。

アニメーション映画

2011年には、シンガポールの監督エリック・クーによって、本作と辰巳の短編作品が原作となった長編アニメ映画『TATSUMI』が制作・公開されました。この映画は、自伝的漫画という独特の視点を持つ作品をより多くの人々に届ける機会となりました。

受賞歴

『劇画漂流』は、多くの国際的な漫画賞を受賞しています。特に2005年のアングレーム国際漫画祭特別賞や、2009年の手塚治虫文化賞大賞などが挙げられます。これにより、その独自のスタイルと表現力が評価されています。

出版書歴

• - 劇画漂流 上巻（2008年11月、青林工藝舎）
• - 劇画漂流 下巻（2008年12月、青林工藝舎）
• - 劇画暮らし（2010年10月、本の雑誌社）

本作は、ただの自伝にとどまらず、日本の劇画の歴史や文化を知るための重要な資料となっています。

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