劉鐸 (明)

劉鐸（りゅう たく）は、明代末期の官僚であり、字を我以、号を洞初と称しました。吉安府廬陵県を本貫とし、その詳しい生年は不明ですが、1626年にその生涯を閉じています。

1616年（万暦44年）、劉鐸は進士に及第し、官僚としての道を歩み始めました。刑部郎中を経て揚州府知府に任じられ、その職務に励みました。しかし、当時の明朝は宦官の魏忠賢が権勢を振るい、政治を壟断していました。劉鐸は、その魏忠賢の専横を深く憂い、憤りを隠すことができませんでした。その心情を詩に託し、僧扇に書きつけた際、「陰霾国事非」という一節を記しました。この詩が密告者によって魏忠賢の耳に入り、劉鐸は危険な立場に立たされることになります。

1625年（天啓5年）11月、揚州府の倪文煥は、かねてから劉鐸を憎んでおり、魏忠賢に取り入って劉鐸を陥れようと画策しました。その結果、劉鐸は逮捕され、投獄されることになります。しかし、劉鐸は魏忠賢の甥である魏良卿と親交があったため、ほどなくして釈放され、元の官職に復帰することができました。魏良卿が劉鐸に「逮捕された際に金はいくらかかったのか」と尋ねると、劉鐸は「三千金だ」と答えました。魏良卿は、その金を取り戻させましたが、このことが錦衣衛の官僚たちの怒りを買い、彼らは劉鐸の失脚を虎視眈々と狙うようになります。

1626年（天啓6年）、かつて獄中にいた際、劉鐸は方震孺と同房で謀議をしていたという疑いがかけられ、再び投獄されてしまいます。さらに、劉鐸の家人が夜に祭祀を行った際、参将の張体乾は、これを魏忠賢への呪詛だと誣告しました。刑部尚書の薛貞は、この誣告を受け、劉鐸を死刑に処すよう上奏しました。そして、1626年8月丁卯、劉鐸は処刑され、その短い生涯を終えたのです。

しかし、劉鐸の死後、状況は一変します。1627年（天啓7年）に魏忠賢が失脚し処断されると、1628年（崇禎元年）には、劉鐸を陥れた薛貞と張体乾も罪に問われ、官籍を剥奪されました。劉鐸は、その無実が証明され、太僕寺少卿の位を追贈され、名誉を回復することになりました。

劉鐸の生涯は、魏忠賢による政治の腐敗と、それに抗った官僚の悲劇を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。彼の不屈の精神と、正義を貫いた姿勢は、後世に語り継がれるべき教訓と言えるでしょう。

もう一度検索