加納六郎

加納六郎

加納 六郎（かのう ろくろう、1920年7月12日 - 2000年9月17日）は、20世紀後半の日本において衛生動物学の分野を牽引した重要な研究者の一人です。特に、公衆衛生上問題となるハエ類の分類、形態、生態に関する研究で顕著な業績を挙げました。東京医科歯科大学では長年にわたり教鞭を執り、学長も務めたほか、日本衛生動物学会会長や日本学術会議会員（第4部動物科学）としても学術界の発展に貢献しました。

生涯と学歴

加納六郎は、1920年に東京の牛込で生まれました。実父は子爵の青木信光です。医学を志し、千葉医科大学医学部医学科に進学。太平洋戦争終結の年である1945年に同大学を卒業しました。

職歴と研究活動

大学卒業後、加納は医学と関連する研究の道を歩み始めます。1946年には東京慈恵会医科大学の助手に就任。その後、1948年には東京大学伝染病研究所の技官に移りました。これらの初期の経験は、後の衛生動物学研究の基礎となったと考えられます。

1952年、加納は東京医科歯科大学に籍を移し、衛生学教室の講師となりました。ここで彼は衛生動物学の研究に本格的に取り組み始めます。1954年に助教授、1957年には教授へと昇任し、同学で長期にわたり研究と教育に専念しました。彼の主な研究対象は、衛生上問題となるハエ類でした。ハエの正確な分類、詳細な形態、そして生態に関する徹底的な研究を行い、この分野における日本の基礎を築きました。これらの研究成果は、ハエが媒介する疾病の予防や防除といった公衆衛生対策に不可欠な情報を提供しました。

学術界および社会への貢献

加納六郎は、教育研究者としてだけでなく、学術界や社会に対しても広く貢献しました。1977年から1980年にかけては東京医科歯科大学医学部長を務め、学部運営に尽力。1985年8月には同大学の学長に就任し、大学全体の発展に指導力を発揮しました。1991年に大学を退官し、名誉教授の称号が贈られました。その後、埼玉医科大学でも教授として教鞭を執り、後進の育成に努めました。

学会活動においては、日本衛生動物学会の会長を務め、同学会の学術活動の推進や国際的な地位向上に貢献しました。また、第16期日本学術会議の会員（第4部動物科学）として、学術政策の形成にも関わりました。1980年には、当時の公衆衛生上の大きな課題であったシラミの問題に対応するため、厚生省が組織したシラミ防除特別研究班の班長を務め、シラミの生態に基づいた効果的な防除対策の確立に指導的な役割を果たしました。

著作と栄誉

長年の研究活動の成果は、多数の重要な著書としてまとめられています。特に「日本の有害節足動物」「新寄生虫病学」「医動物学」といった専門書は、この分野における基本的な文献として広く利用されました。これらの著書は、篠永哲氏、田中寛氏、森下哲夫氏、林晃史氏など、当時の著名な研究者たちとの共著が多いことも特徴です。これらの著作を通じて、加納は自らの研究成果を広く公開し、日本の衛生動物学および医動物学の発展に多大な貢献をしました。

その卓越した業績と貢献に対して、加納は多くの栄誉を受けました。1958年度には、日本の衛生動物学研究における重要な賞である第4回日本衛生動物学会賞を受賞しました。さらに、1993年には勲二等旭日重光章を受章し、国家に対する貢献が認められました。死去にあたっては、正三位に叙せられました。

晩年

東京医科歯科大学退官後も研究・教育活動を続けましたが、2000年9月17日、80歳で逝去しました。墓所は東京都府中市にある多磨霊園にあります。

家族

加納六郎は、子爵青木信光を父に持ちます。また、甥にあたる動物学者の青木淳一（兄の長男）は、横浜国立大学名誉教授であり、ダニ研究の権威として知られています。

加納六郎は、衛生動物学、特にハエ類の研究を通して、日本の公衆衛生の向上と学術の発展に生涯を捧げた研究者であり、教育者でした。その功績は、現在もこの分野の研究者たちによって高く評価されています。

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