加藤民吉

加藤民吉（初代）：磁祖と呼ばれた陶工の生涯

加藤民吉（かとう たみきち、1772年 - 1824年）は、江戸時代後期に活躍した陶工です。特に、瀬戸に磁器の製法をもたらした人物として「磁祖」と称えられています。同名を名乗った人物は6人いますが、この記事では初代民吉に焦点を当て、その生涯と業績を詳細に解説します。

生い立ちと陶工への道

明和9年（1772年）、尾張国春日井郡瀬戸村（現在の愛知県瀬戸市）の大松窯という窯元の次男として生まれました。幼名は松次郎。生家は瀬戸の山陶屋家の分家筋にあたります。当時の瀬戸窯は、伊万里焼などの磁器に押され気味であり、「窯屋1軒にロクロ1挺」「窯を継ぐのは長子のみ」といった規制により生産量が制限されていました。そのため、長兄が窯を継いだことで、民吉は陶工としての職を失い、父と共に名古屋へ移住することになります。

津金胤臣との出会いと磁器への挑戦

名古屋での新田開拓に従事する中、民吉は熱田奉行・津金胤臣と出会います。胤臣は民吉が瀬戸の陶工であったことを知り、かねて入手していた中国の陶磁器に関する書籍『陶説』に書かれていた染付磁器の製法を教えるとともに、資金援助を行いました。民吉は熱田新田の堤防を利用して窯を築き、試作を重ねましたが、瀬戸村からの反発を受け、窯を瀬戸に移して試作を続けることになります。

天草・三川内での修行

瀬戸での試作が思うように進まない中、民吉は天草に磁器の窯があることを知ります。法輪寺の学道祖英からの紹介状を携え、天草の東向寺の上藍天中を頼り、文化元年（1804年）に瀬戸を出発。天中からの紹介で、高浜村の庄屋であり窯元でもあった上田宜珍の窯に住み込み、蹴ロクロの使い方を学びました。その後、肥前の技術を学ぶため、長崎を経て三川内皿山へ。しかし、「他国の者は置けない」という理由で、すぐに三川内を離れることになります。

佐々での2年間と技術の習得

三川内を追われた民吉は、佐々村の福本仁左衛門の窯に雇われ、2年間を過ごします。当初は尾張出身であることを隠していましたが、仁左衛門に見抜かれ、その念入りな仕事ぶりを認められました。この地で釉薬の調合などを学び、技術を大きく向上させました。

有田での潜伏と瀬戸への帰郷

佐々を離れた民吉は、有田で上絵の技法を学ぼうと試みますが、鍋島藩の情報統制により失敗。しかし、丸窯の築窯方法を見覚えることができました。その後、天草へ戻り、上絵の技法を伝授されると共に、瀬戸で使用している絵薬（呉須）の入手を依頼され、文化4年（1807年）に瀬戸へ帰郷しました。

瀬戸における染付磁器の確立と晩年

瀬戸に戻った民吉は、藩主に磁器を献上し、染付御用達となります。文化5年（1808年）には苗字を公称することを許され、瀬戸の磁器は「染付焼」として京・大阪・江戸にも出荷されるようになり、瀬戸窯は復興しました。文政7年（1824年）に53歳で没し、瀬戸の地に眠っています。

民吉の現地妻説を検証する

民吉には「尾張から来たことや妻子があることを隠して窯元の娘と結婚し、製法を知った後に瀬戸に逃げ去った」という現地妻に関する噂が長年語られてきました。しかし、民吉が正体を隠していなかったことや、御礼奉公を1年間務めてから退去していることなどから、この説には疑問が呈されています。佐々に残る墓や福本家との交流を示す記録などから、現地妻との間に悲恋があったという物語は、後世の創作である可能性が高いと考えられています。

贋作問題と文盲説

佐々には「民吉の作」とされる焼物が複数存在しますが、多くが贋作であるとされています。また、民吉が作品に銘や落款を残していないことから、文盲であった可能性も指摘されています。

民吉を描いた作品

民吉の生涯は、舞台やテレビドラマ、小説など、様々な形で描かれています。特に、舞台『明暗縁染付』は、民吉と現地妻の悲恋を描いた作品として知られています。

2代以降の民吉

初代民吉には息子がいなかったため、兄の次男を養子に迎えましたが、直系の子孫はいません。2代以降も陶業を継承しましたが、5代以降は陶業から離れています。

加藤民吉は、瀬戸に磁器をもたらした偉大な陶工として、その名は後世に語り継がれています。

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