加賀見山再岩藤

加賀見山再岩藤：怨霊と策略の時代劇

加賀見山再岩藤は、二代目河竹新七によって書かれた7幕から成る時代物歌舞伎狂言です。1860年（万延元年）3月、江戸の市村座で初演され、大きな話題を呼びました。この作品は、それ以前の演目『加賀見山旧錦絵』の後日譚として位置づけられています。

『加賀見山旧錦絵』で描かれた悲劇から一年後、お初に殺害された岩藤の霊が、望月弾正という人物を操り、多賀藩の乗っ取りを企てるという、壮大な復讐劇が展開されます。

特に印象的なのは、八丁畷の墓場で討ち取られた岩藤の遺骨が、まるで意思を持ったかのように集まり、骸骨となって岩藤が復活するシーンです。この劇的な演出から、「骨寄せの岩藤」という通称で呼ばれることになりました。幽霊の岩藤の登場は、歌舞伎独特の演出技術と、観客の想像力を掻き立てる演出となっています。

歌舞伎役者たちの芸談には、興味深いエピソードが残されています。大道具の長谷川勘兵衛は、お化けと幽霊の消え方が異なることを指摘し、幽霊は「パッと」消えるのだと言及しています。三代目菊五郎はこの点にこだわって演出に反映させていたと伝わっており、役者たちの舞台にかける情熱とこだわりが伺えます。また、宙乗りという特殊効果は楽屋では「ふわふわ」と呼ばれていたという逸話も残されています。

近年では、2021年8月に歌舞伎座で、坂東巳之助と市川猿之助という当代きっての名優が、多賀大領、御台梅の方、奴伊達平、望月弾正、安田隼人、そして岩藤の霊という6役もの大役を演じ分けました。それぞれの役柄の個性を見事に表現した彼らの演技は、観客を魅了し、大きな話題となりました。この公演は、伝統的な歌舞伎と現代的な解釈が融合した、新しい『加賀見山再岩藤』像を提示したと言えるでしょう。

『加賀見山再岩藤』は、怨霊の復讐劇という分かりやすいストーリー展開の中に、歌舞伎独特の演出技術、役者たちの芸の深さ、そして時代劇ならではの緊迫感や迫力を見事に融合させた作品です。幽霊の表現方法や、時代背景、登場人物たちの心理描写など、様々な要素が複雑に絡み合い、観る者を引き込む魅力に溢れています。歴史的背景や、歌舞伎の表現方法、役者たちの技量、そして現代的な解釈などを踏まえて鑑賞することで、この作品が持つ奥深い魅力をより一層味わうことができるでしょう。

参考文献

「加賀見山再岩藤」。コトバンク。https://kotobank.jp/word/%E5%8A%A0%E8%B3%80%E8%A6%8B%E5%B1%B1%E5%86%8D%E5%B2%A9%E8%97%A4 (2021年8月29日アクセス)
渡辺保『増補版 歌舞伎手帖』（角川ソフィア文庫、2012年）
* 『八月花形歌舞伎』パンフレット（歌舞伎座、2021年）

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