動物用医薬品センター (アメリカ)

動物用医薬品センター

動物用医薬品センター（Center for Veterinary Medicine、略称CVM）は、アメリカ合衆国の主要な規制機関である食品医薬品局（FDA）の傘下にある部門です。その主な役割は、動物用医薬品、薬物、飼料、およびその添加物の製造と流通を監督し、規制することにあります。対象となる動物は広範囲に及び、食用とされる家畜（牛、豚、鶏、七面鳥など）や希少動物に加え、多くの家庭で飼育されているペット、すなわちコンパニオンアニマル（犬、猫など1億頭以上）も含まれます。ただし、動物用ワクチンはCVMの管轄外であり、これはアメリカ農務省が担当しています。

CVMの重要な責任の一つに、動物が使用する医薬品や飼料の安全性を監視することが挙げられます。その業務の多くは、畜産物を介して人間の食品に重大な薬物残留物が混入するのを防ぐため、食用動物に用いられる動物用医薬品の安全性確保に注力しています。

沿革

CVMの起源は、1953年にFDAの医療局内に設立された獣医療部門に遡ります。その後、この部門は拡充され、1965年には獣医学局（Bureau of Veterinary Medicine, BVM）として独立した組織となりました。当初、BVMは獣医学審査、動物新薬、および獣医学研究の各部門を擁していましたが、1970年にはコンプライアンス部門と栄養科学部門が追加されました。組織再編を経て、1984年に現在の動物用医薬品センター（CVM）へと名称が変更されました。

センター長については、2017年からはスティーブン・ソロモン博士がその職を務めています。彼は獣医学博士号と公衆衛生学修士号を持ち、前任者であるトレーシー・フォーファ氏（センター長代行）や、2008年から2016年までセンター長を務めたベルナデット・ダナム博士の後に続いています。

使命と理想

CVMの掲げる使命は、「人間と動物の健康を守ること」です。この使命達成のために、組織は「卓越性、革新性、指導力」を理想としています。CVMは、公衆衛生の向上に貢献するため、様々な分野の専門家が集まり、学際的な活動を展開しています。

組織構成

CVMは、その多様な業務を遂行するために、六つの主要な部門によって構成されています。

局長室: センター全体の活動を統括し、管理、研究、コンプライアンスなど、あらゆる分野の方針を決定します。活動計画の策定、予算編成、運営管理を指揮するほか、動物用新薬および食品添加物の承認手続きを担い、申請中の新薬が人間の健康に与える影響の評価も行います。また、局長はセンターの代表として、社会、産業界、他の政府機関などとの連携窓口となります。

管理予算局: センター職員や外部への顧客サービス、指導、研修を提供します。組織の目標達成に向けた戦略的な計画立案を支援し、特定の施設やプログラム、サービスの調整役を務めます。この部門は、請求処理、情報管理、技術サポート、人材育成、そしてセンターの予算管理全般を担当しています。

動物用新薬評価局: 動物用医薬品の製造・販売承認申請が提出された際、その情報を詳細に審査します。医薬品承認にあたっては、製品が「動物と人間の両方にとって安全であるか」、「使用目的に対して効果があるか」、「高品質であるか」、「適切なラベル表示がなされているか」という四つの基準を満たしているか厳密に評価します。承認後も、これらの基準が市場で維持されているかを確認する役割も担っています。

監視・コンプライアンス局: 動物用医薬品や医療器具の安全性と有効性に関する規制を執行し、動物向け食品の安全プログラムも監督します。獣医師、畜産学者、毒物学者など、様々な専門家が所属しており、製品検査やサンプルの分析、輸入品の評価支援を行います。コンプライアンスに関する教育や啓発活動を実施し、有害事象の監視を支援することで、製品の安全上の問題を特定します。安全上の懸念が確認された場合は、製品安全性に関する警告の発令、ラベル変更指示、リコールの実施、あるいは製品承認の取り消しといった措置を講じます。

研究局: 薬物、食品添加物、および実験環境における汚染物質を分析するための新しい手法の開発を支援します。動物体内での薬物の吸収、分布、代謝、排泄に関する研究や、様々な薬物が動物の免疫系や生理機能に与える影響を調査します。食品媒介性疾患や食品中の残留薬物を検出する技術開発も行います。研究分野は獣医学、畜産学、生物学、化学、微生物学、疫学、薬理学など多岐にわたり、専用の実験設備を備えた施設で活動しています。

希少利用少数種局: CVMの中で最も小規模な部門ですが、重要な役割を担っています。この部門は、馬、犬、猫、牛、豚、七面鳥、鶏といった主要な動物種においても「希少な利用」、すなわち発生頻度が低いか地理的に限定された疾患、または少数の個体のみが罹患する疾病の治療薬を扱います。また、動物園の展示動物、オウム、フェレット、モルモット、ヒツジ、ヤギ、ミツバチなどの比較的個体数が少ない「マイナー種」に関わる課題も担当しています。この部門は、「マイナー種用未承認動物用新薬の合法的流通品インデックス」を維持・管理しており、アウトリーチや研修活動も行っています。

CVMの活動は、アメリカ国内の動物たちの健康維持はもちろんのこと、食料としての畜産物の安全性を通じて、人間の健康と公衆衛生を守る上で不可欠な役割を果たしています。

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