務臺光雄

務臺光雄の生涯

務臺光雄（むたい みつお）は、1896年6月6日に長野県南安曇郡温村（現在の安曇野市）で生まれ、1991年4月30日に94歳で亡くなった日本の実業家です。読売新聞社（現・読売新聞東京本社、読売新聞グループ本社）の社長、名誉会長、讀賣テレビ放送の会長を歴任し、読売グループの発展に大きく貢献しました。

販売の鬼

社会部や政治部が花形とされる新聞社において、務臺は販売畑一筋でそのキャリアを築きました。戦前まで東京を中心とした東日本のブロック紙に過ぎなかった読売新聞を、日本を代表する全国紙にまで押し上げた功績は非常に大きいものです。その辣腕ぶりから「販売の鬼」と称される一方で、演劇や登山を愛する一面も持ち合わせていました。

読売新聞社への入社

早稲田大学専門部政経科を卒業後、繊維会社勤務を経て、1923年に報知新聞社に入社しました。当時、朝日新聞や大阪[[毎日新聞]]（現・毎日新聞）が東京に進出し、在京の新聞社が苦境に立たされる状況を目の当たりにしました。その後、販売局長を務めた後、1929年に読売新聞社社長の正力松太郎に見出され、読売新聞社に移籍し、販売局に勤務しました。彼の卓越した販売戦略とリーダーシップにより、読売新聞の部数は第二次世界大戦前の東日本で、ライバルであった「東京朝日新聞」（現・朝日新聞東京本社）や「東京日日新聞」（現・毎日新聞東京本社）を大きく引き離し、驚異的な躍進を遂げました。1944年には、取締役業務局長に就任しました。

大阪進出と讀賣テレビ放送の設立

1951年、正力松太郎の命により、務臺は元読売新聞社会部記者の竹井博友とともに、大阪に読売新聞の発行本社を置くための用地探しに奔走しました。阪神電気鉄道による社屋用地の仲介、そして大阪を地盤とする朝日、毎日両新聞の社長に大阪進出の了解を取り付け、1952年10月、大阪讀賣新聞社（現・読売新聞大阪本社）を発足させ、初代社長に就任しました。近畿・中国・四国の有力新聞社から中堅の記者をスカウトし、新聞発行の基礎を固めました。1958年には、大阪読売の部数拡大を目的として、準キー局である讀賣テレビ放送を開局させました。

九州進出と名古屋進出

1962年、正力はかねてから進出機会をうかがっていた九州地方への進出を務臺に命じました。務臺は戦前ならば外地（朝鮮・台湾・満州）向けの取材・印刷拠点として九州進出は採算が取れるが、戦後は状況が変わっており、九州に進出するよりも名古屋に進出した方が読売にとってメリットが大きいと考えていましたが、最終的には正力の意思が優先されました。1964年、読売巨人軍の運営会社である読売興業株式会社が福岡県北九州市に読売新聞西部本社（後に福岡市に移転）を設置し、読売新聞の発行を開始しました。また、有楽町の読売会館を統合し、巨人軍と読売会館の収益で読売新聞西部本社の赤字を埋める構造を確立し、読売グループの経営に影響が出ないように手を打ちました。

務臺は、読売新聞の名古屋進出の機会も窺っていましたが、正力の存命中は九州進出が優先されました。1974年、竹井博友と再び協力し、名古屋市に中部読売新聞社を設立し、「中部読売新聞」を創刊しました。念願の名古屋進出を果たし、読売新聞は全国紙として朝日新聞、毎日新聞と肩を並べる体制となりました。

正力松太郎の死後と務臺の晩年

1969年10月、読売新聞の総帥であった正力松太郎が死去。その7ヶ月後の1970年5月、務臺は読売新聞社社長に就任しました。務臺は正力の娘婿である小林與三次を後継者として立てようとしましたが、小林が実子の正力亨に弱く、亨が務臺に頭が上がらないという複雑な状況がありました。その中で、小林の下にいた渡邉恒雄は、上の者たちを追い落とす機会を狙っていました。

1981年、務臺は読売新聞社社長の座を小林に譲り、会長に就任。1983年には名誉会長となりましたが、代表権は手放さず、1991年に亡くなるまで読売の最高実力者として君臨し続けました。1991年4月30日に心不全のため死去。務臺の死後、渡邉恒雄が読売新聞社社長に就任し、読売は渡邉を中心とした集団指導体制に移行しました。葬儀は読売グループの合同葬として行われ、巨人軍V9時代の監督であった川上哲治らが弔辞を読み上げました。

巨人軍との関係

読売の最高実力者として、務臺は1970年代から90年代初頭にかけて、巨人の実質的なオーナーとして権力を振るいました。V9時代のように毎年の優勝は叶わなかったものの、チームは安定した成績を収めていました。1974年に川上哲治監督が勇退し、長嶋茂雄が新監督に就任しましたが、務臺は長嶋への不信感を募らせ、1980年に解任しました。その後、藤田元司を監督に据え、全幅の信頼を寄せました。また、王貞治監督の解任も務臺が決定しました。

務臺の巨人軍への影響は大きく、彼が亡くなった後に「巨人がおかしくなってしまった」と評する声もあるほどです。

務臺光雄は、読売新聞社を全国紙へと押し上げ、読売グループの基礎を築いた功労者として、その名を歴史に刻んでいます。

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