勝利は我に

トムとジェリー：勝利は我に - 戦争とユーモアの交錯

『勝利は我に』（原題：The Yankee Doodle Mouse）は、1943年6月26日に公開されたトムとジェリーの短編アニメーション作品であり、シリーズ初となるアカデミー賞短編アニメ賞を受賞した名作です。第二次世界大戦真っ只中という時代背景を反映し、作品全体には戦時色が強く、トムとジェリーはコミカルながらも本格的な「戦争」を繰り広げます。

物語は、いつものようにトムとジェリーが追いかけっこから始まるものの、その様相は一味違います。ジェリーは「CAT RAID SHELTER（防猫壕）」と書かれた爆弾型の看板の方向へ逃げ込み、地下室の隠れ家に身を潜めます。トムが迫ると、ジェリーはトマトを投げつけ反撃を開始。こうして、地下室は二人の戦場と化します。

ジェリーは「HEN-GRENADE（卵手榴弾）」やレンガを武器にトムを攻撃し、トムは為す術もなく水桶に没します。しかし、トムはすぐに反撃を開始。一方、ジェリーはメリケン粉で煙幕を作り、牛乳パックで自作した爆撃機から電球爆弾を投下するなど、創意工夫に富んだ攻撃を仕掛けます。トムは花火を乱射して防空砲火を展開し、機銃掃射でジェリーを追い詰めます。

クライマックスでは、トムがジェリーをロケット花火に縛り付け、打ち上げようとするも、ジェリーは逆にトムの両手を縛り付け、トムを花火と共に夜空へと打ち上げてしまいます。夜空には、鮮やかな星条旗を模した花火が打ち上がり、ジェリーは勝利を収めます。そして、司令部へ「SEND MORE CATS！（猫をもっと送れ！）」という電報を送信します。この電報は、ウェーク島の戦いで米海兵隊が送ったとされる電報「SEND US MORE JAPS」を捩ったもので、当時の緊迫した状況を反映していると考えられます。

本作の見どころは、何と言ってもトムとジェリーのコミカルな戦闘シーンです。彼らは、ありとあらゆる物を武器として利用し、知略と奇想天外な作戦で相手を出し抜こうとします。卵やレンガ、メリケン粉、そして花火まで、あらゆるものが戦いの道具と化し、見ている者を飽きさせません。

また、ラストシーンで夜空に広がる星条旗は、48個の星を持つもので、1943年当時のアメリカ合衆国国旗を正確に再現しています。アラスカとハワイがまだ州に昇格していなかった時代を反映した、歴史的な細部にも注目です。

さらに、1950年の再公開時に一部シーンがカットされていることも知られています。カットされたシーンは、ジェリーがトムの舌を使って手紙に切手を貼り付ける場面で、「敵（トム）はいくつかの良い舐めをします」というユーモラスな内容だったと伝えられています。残念ながらMGMフィルム保管庫の火災により、このシーンは失われてしまいましたが、背景画やセル画の一部素材が残っていることから、その存在は確認されています。

『勝利は我に』は、戦争という重いテーマを扱いながらも、トムとジェリーのユーモラスなやり取りによって、軽妙なタッチで描かれた傑作です。時代背景、緻密な描写、そしてトムとジェリーの絶妙な掛け合いを、ぜひ楽しんでください。

登場人物

トム: 花火や爆弾などを駆使し、ジェリーと激しい戦闘を繰り広げます。
ジェリー: トマト、卵、電球、メリケン粉など、ありとあらゆるものを武器にしてトムに立ち向かいます。

スタッフ

監督、脚本、共同製作など、多くの役割をウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラが担っています。その他、多くのスタッフが制作に携わっており、彼らの技術の高さがうかがえます。

補足事項

ジェリーは作中で「ジェリー・マウス大尉」と名乗り、自らを軍人に見立てています。
使用されているBGM「Yankee Doodle」はアメリカの愛国歌・童謡で、日本では「アルプス一万尺」として知られています。

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