匁銭

匁銭（もんめせん）とは

匁銭とは、江戸時代後期に西日本を中心に用いられた商慣習で、一定枚数の銅銭を束ねて「匁」として流通させたものです。別名「銭匁勘定（ぜにめかんじょう）」とも呼ばれます。

背景

江戸時代の貨幣制度は金貨、銀貨、銅銭の三種類を基本としていました。しかし、西日本では秤量貨幣である銀貨が主に用いられ、特に商人間の取引で重宝されました。一方、庶民の日常生活では銅銭が不可欠でしたが、銀貨と銅銭の交換レートは常に変動していました。さらに、元禄から享保にかけての度重なる貨幣改鋳や公定交換レートの変更、そして銀貨自体の不足が、この状況をさらに不安定にしました。

匁銭の誕生

こうした状況下で、換算の不便さを解消するために、一定枚数の銅銭を束ねて銀1匁として通用させる慣習が生まれました。例えば、銭96枚を銭緡（ぜにさし）に通して100文として通用させる九六銭のように、相場の変動に左右されない安定した貨幣単位を求めた結果です。

この慣習が「匁銭」であり、銭緡1束を「銭1匁」と表現しました。当初は単なる換算の便宜を図るためのものでしたが、後に各藩が独自の匁銭規定を定めることで、領国貨幣化・地方貨幣化が進むことになります。藩札の中にも、それぞれの匁銭に基づいて発行されたものが見られます。

各藩による匁銭の規定

銭何枚を銭1匁とするかは、各藩が実際の銀銭相場や経済状況を考慮して決定しました。小倉藩では80文、熊本藩では70文、福岡藩では60文と、藩ごとに異なる規定が設けられました。天領においても、日田領では19文、天草領では76文といった具合に、地域差が見られました。これらの規定は、幕末まで維持されることが多かったようです。

これらの規定の多くは、銭1貫文＝960文（九六銭換算）もしくは米1石＝19000匁を基準とし、その約数で決められました。藩が定めた匁銭は、その藩内でしか通用しないため「国銭」とも呼ばれました。

匁銭の国際的な側面

興味深いことに、960文は当時の清（中国）の6斤に相当します。また、米1石＝19000匁という換算は、日本の重量換算ではなく、清制に基づいたものです。このことから、長崎を経由した日清貿易（銀貨・銅銭が中心）が匁銭の決定に影響を与えたとする見方もあります（藤本隆士）。

匁銭の意義

匁銭は、単なる貨幣制度の一環ではなく、地域経済の実情に合わせた独自の貨幣システムとして機能しました。各藩が独自の匁銭を定めることで、地域経済の安定化に貢献した一方で、異なる匁銭が混在することで、藩を跨いだ取引には不便も生じました。しかし、この制度は、江戸時代の経済活動において重要な役割を果たしました。

参考文献

藤本隆士『近世匁銭の研究』吉川弘文館、2014年 ISBN 978-4-642-03463-0

関連項目

日本の貨幣史

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