北の大火

北の大火（天満焼け）

1909年（明治42年）7月31日から8月1日にかけて、大阪府大阪市北区で発生した大火災、北の大火（きたのたいか）は、明治期における大阪市最大の火災として知られています。別名「天満焼け（てんまやけ）」とも呼ばれ、キタの大火と表記されることもあります。

火災の発生と拡大

7月末の大阪は連日続く猛暑と乾燥で、強風が吹き荒れていました。7月31日午前4時頃、北区空心町（現在の大阪市立扇町総合高等学校付近）のメリヤス工場から出火。夜通し作業中、ランプを誤って落としたことが原因でした。不運にもこの時、水道は断水しており、初期消火活動は困難を極めました。

火は乾燥した空気と強風を翼に、西南方向へ猛烈な勢いで拡大。午前7時40分頃には風向きが変わり、さらに多くの地域が炎に包まれました。大阪天満宮（天満天神）周辺にも延焼し、劇場なども焼失しました。消防隊が懸命の消火活動にあたりましたが、火勢は衰えず、午前10時50分には天満南森町郵便局が焼失するなど、被害は拡大の一途を辿りました。天満天神への延焼の危機には、神官たちが神体を避難させるなど、必死の対応がとられました。

消火活動は難航し、大阪府知事は第4師団に応援を要請。陸軍部隊も消火活動に参加しましたが、火勢は依然として猛烈でした。正午には堀川を飛び越え、さらに西へと広がっていきました。西天満尋常小学校（現・大阪市立西天満小学校）も焼失し、繁華街も炎に包まれました。劇場である老松座も全焼、裁判所官舎にも延焼。堂島川沿いは避難民と荷物であふれかえり、まさに修羅場と化しました。

消防隊員や警察官は、飲まず食わずで長時間消火活動に当たり、疲労困憊の状態でした。それでも火は収まらず、午後3時30分頃には家屋を破壊して防火線を作るという決断が下されました。しかし、梅田新道などを防火線としたものの、火勢は依然として衰えず、福島付近まで延焼しました。強風が弱まり始めた午前5時10分、ようやく鎮火しました。

火災の原因と被害

火災の原因は、メリヤス工場の石油ランプの落下でした。工場主は罰金刑を受けました。被害は甚大で、焼失戸数は約11,365戸、死者3名、負傷者689名、罹災者数は43,533名にのぼりました。被害総額は、当時の1戸あたりの焼失による平均損害額を基準に推計すると約1,502万4530円に上ります。

被害拡大の原因としては、近代都市の急激な過密化による木造家屋の密集、乾燥した状態での強風、そして出火時の断水などが挙げられます。

避難と救援

火災発生後、大阪市長は災害対策本部を設置し、炊き出しや避難所の設置を行いました。しかし、火災の拡大に伴い、公的機関も被災し、救援活動は困難を極めました。市職員だけでなく、陸軍も救援活動に参加し、避難所運営、食糧確保などに当たりました。義捐金は73万9341円53銭6厘にも上り、明治天皇、皇后からも下賜金がありました。また、警察は防犯対策にも力を入れ、火災に絡む犯罪の発生は少なかったとされています。

北の大火の影響

北の大火は、大阪の都市計画や防災対策に大きな影響を与えました。

曽根崎川の埋立と東西幹線道路の開設: 曽根崎川の一部は埋め立てられ、東西方向の幹線道路が新設されました。
大阪市庁舎の建設: 焼失した市立大阪高等商業学校跡地には、大阪市庁舎が建設されました。
大阪電燈と大阪瓦斯: 大阪電燈は大きな打撃を受けましたが、その後の需要増加によって発展しました。大阪瓦斯は配管被害を免れました。
建築取締規則の成立: 火災から半月後、「大阪府例 建築取締規則」が発令されました。これは、ペスト予防の観点からも必要とされていたものでした。
消防署の設置: 消防の抜本的な改革が行われ、大阪市に4つの消防署と2つの消防分署が設置されました。
弘済会の成立: 義捐金の残余金などを元に、慈善事業を行う財団法人弘済会が設立されました。
* 救援物資不正と市長の辞任: 救援物資の不正流用などが発覚し、市長と助役が辞任に追い込まれました。

北の大火は、大阪の歴史において大きな転換点となりました。この大火を教訓に、都市計画、防災対策、そして行政の透明性が大きく改善されていきました。

もう一度検索