北村季吟

北村季吟：江戸時代前期を彩った歌人、俳人、そして学者

北村季吟（きたむら きぎん、1625年-1705年）は、江戸時代前期における歌人、俳人、そして和学者として多大な功績を残した人物です。近江国野洲郡北村（現在の滋賀県野洲市）出身で、医師の家系に生まれ、祖父と父から医学を継承しました。しかし、季吟の才能は医学のみに留まりませんでした。

俳諧の世界では、まず安原貞室に師事し、その後松永貞徳に師事。貞門派俳諧の新鋭として『山之井』の刊行で注目を集めました。さらに、和歌と歌学においては、飛鳥井雅章と清水谷実業という当時一流の歌学者から指導を受け、その研鑽を深めました。その成果は『土佐日記抄』、『伊勢物語拾穂抄』、『源氏物語湖月抄』といった注釈書の出版という形で結実しました。

季吟の才能は高く評価され、元禄2年（1689年）、歌学方として500石の禄高で幕府に仕えることとなります。その際、息子の湖春も共に幕府に仕え、以後北村家は幕府歌学方を世襲することになりました。

俳諧においては貞門派の枠を超えることはありませんでしたが、『新続犬筑波集』、『続連珠』、『季吟十会集』といった歌集の編纂や、式目書「埋木」、句集「いなご」など、多くの作品を残しました。また、山岡元隣、松尾芭蕉、山口素堂といった著名な俳人を輩出したことでも知られています。

季吟の学問への情熱は並々ならぬものでした。『源氏物語湖月抄』、『徒然草文段抄』、『枕草子春曙抄』、『伊勢物語拾穂抄』、『八代集抄』、『菟芸泥赴』、『万葉拾穂抄』など、多くの注釈書や著作を著し、後世の研究者にも多大な影響を与えました。

晩年は、多くの弟子たちに囲まれながら、歌と俳諧の世界で活躍を続けました。宝永2年（1705年）、82歳で生涯を閉じました。その死後、大正4年（1915年）には従四位を追贈されています。

現在も、東京都台東区池之端の正慶寺に季吟の墓があり、東京都史跡に指定されています。墓石には「再昌院法印季吟先生」と刻まれ、側面には辞世の句「花も見つ 郭公（ほととぎす）をもまち出でつ この世 後の世おもふ事なき」が刻まれています。

季吟の血筋は現在も続いており、その末裔には、長野県の県歌『信濃の国』を作曲した北村季晴や、元サッカー日本代表で数学者の北村春吉らがいます。北村季吟は、医学、歌、俳諧、歌学と幅広い分野で才能を発揮し、後世に多大な影響を与えた、まさに江戸時代を代表する文化人と言えるでしょう。彼の業績は、多くの研究書や著作によって今もなお語り継がれています。例えば、島内景二『北村季吟　この世のちの世思ふことなき』、野村貴次『北村季吟の人と仕事』、石倉重継『北村季吟伝』などが挙げられます。これらの文献は、季吟の生涯と業績をより深く理解する上で貴重な資料となっています。

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