匿名Aによる論文大量不正疑義事件

匿名Aによる論文大量不正疑義事件

2014年末から2015年初頭にかけて、インターネット上でハンドルネーム「匿名A」を名乗る人物によって、80本以上の医学論文に研究不正の疑義が指摘された事件の通称です。この事件は、STAP細胞事件をはるかに上回る規模の研究不正疑惑として、学術界に大きな衝撃を与えました。匿名Aの指摘は、単なる告発に留まらず、大学、学会、国会を巻き込む大規模な問題へと発展しました。

事件の背景

2000年前後から、日本の大学改革が進むにつれて、研究不正事件が数多く報道されるようになりました。特に、インターネット上の匿名掲示板への書き込みが発覚のきっかけとなるケースが多く、匿名サイトへの関心が高まりました。2006年には、上司の教授の捏造を告発した助手が服毒自殺するという大阪大学の事件が発生し、これを受けて日本分子生物学会は研究倫理に関する若手教育シンポジウムを2007年から開催していました。しかし、皮肉なことに、その倫理活動の中心人物であった東京大学分子細胞生物学研究所の教授の論文に、捏造が疑われる酷似画像が多数発見され、2012年に告発されるという事件も発生しました。

このような状況の中、2013年には日本分子生物学会の年会長を務めた大阪大学の近藤滋が、「捏造問題にもっと怒りを」というトピックをウェブサイトに開設し、匿名での意見を募集しました。この掲示板で、匿名Aと名乗る人物が医学論文の類似画像を指摘したことが、今回の大量不正疑義事件のきっかけとなりました。

事件の発覚と拡大

2014年12月30日から2015年1月3日にかけて、匿名Aは「捏造問題にもっと怒りを」のコメント欄に、1996年から2008年に発表された約80本の医学論文に不正なデータ操作や流用があるという指摘を投稿しました。この指摘は、インターネットを通じて瞬く間に拡散され、大手新聞社やNHKなどのマスメディアも報道を開始しました。文部科学省も匿名による告発文書を受け取り、調査に乗り出しました。

大学の対応

指摘された論文の中で最も多かった大阪大学は、27本の論文について予備調査を行いましたが、データが残っていないという理由で多くの論文について不正の事実確認を断念しました。他の大学も同様に、不正を認めない、または十分な調査を行わないまま調査を終了したケースが目立ちました。

国会の対応

国会でもこの問題が取り上げられ、文部科学省は調査状況について報告しました。しかし、多くの論文で不正の事実が確認されず、調査が打ち切られたことが明らかになりました。また、東京大学が匿名Aの指摘に関する調査内容を一切公表していないことも問題視されました。

学術誌・学会の対応

金沢大学の1本の論文は撤回されましたが、他の多くの論文は修正公告に留まりました。また、日本分子生物学会は、匿名Aが利用していたウェブサイトを学会が管理していると誤解されることを懸念し、匿名Aの書き込みを削除しました。しかし、2024年には削除された書き込みが再び復活しています。

海外の反応

海外の研究者からも、論文の訂正対応に対する疑問の声が上がりました。

特記事項

匿名Aは、あくまで匿名掲示板におけるハンドルネームであり、同一人物であるという確証はありません。しかし、毎日新聞は同一人物と見られると報じています。また、東京大学は、匿名Aの指摘に関する調査結果をほぼ黒塗りで開示したため、情報公開に関する問題も浮上しました。匿名Aの指摘が解明されなかった理由については、あまりに大規模な論文不正事件であるため、大学側が調査コストを躊躇せざるを得ないのではないかという推測もなされています。

大量不正疑義事件以外にも、匿名Aは論文の画像データに関する指摘を行っており、現在までに117報の論文が指摘されています。これらの論文の中には、日本人ノーベル医学生理学賞受賞者の論文も含まれています。匿名Aの指摘は、日本の科学界における研究不正の問題を改めて浮き彫りにしたと言えるでしょう。

117報の一覧

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関連項目

出版後査読
PubPeer

出典

（省略）

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