十万分の一の偶然

十万分の一の偶然

『十万分の一の偶然』（じゅうまんぶんのいちのぐうぜん）は、著名な作家松本清張の作品であり、1980年から1981年にかけて『週刊文春』で連載され、1981年7月に文藝春秋から単行本として出版されました。この作品は、アマチュア・カメラマンが撮影した一枚の報道写真を中心に、現代社会の犯罪の姿を描いたクライム・ミステリーです。

あらすじ

物語は、ある夜、東名高速道路の沼津インターチェンジ近くで発生した玉突き衝突事故から始まります。この事故では、一台のアルミバントラックが急ブレーキをかけ、結果として多くの車両が次々に大破し、炎上しました。事故の原因を調査する警察は、ブレーキをかける原因となるような痕跡を発見できず、事故の真相がますます謎に包まれます。

一方、山鹿恭介というアマチュア・カメラマンが撮影した事故の瞬間を捉えた写真「激突」は、その迫真力によってA新聞社の「ニュース写真年間最高賞」を受賞しました。この作品は、撮影者が決定的瞬間に居合わせたことから「十万に一つの偶然」と評されます。しかし、事故で婚約者である山内明子を失った沼井正平は、この偶然に疑問を抱き、真実を追い求めるために独自の調査を始めることになります。

「十万分の一の偶然」とは、本当に偶然だったのか、それとも何らかの意図があったのか。正平は、事故の背後に隠された秘密を解明するべく行動を起こします。物語は、真実を追求する彼の行動を通じて、様々な人々との関係や、報道写真が持つ力とその影響を深く掘り下げていきます。

主な登場人物

• - 沼井正平: 東京・祐天寺に住む元P大学経済学部助手。婚約者の明子を失った後、大学を辞職し、調査を開始します。
• - 山鹿恭介: 報道写真に強い関心を持つアマチュアカメラマン。福寿生命保険の外務員でもあります。
• - 山内明子: 事故によって命を落とした正平の婚約者。
• - 山内みよ子: 明子の姉で通訳業をしており、明子の死を知りスイスから帰国します。
• - 西田栄三: 藤沢のアマチュア写真団体「湘南光影会」のメンバー。
• - 米津安吉: 事故当時、明子の後ろを走っていたライトバンの同乗者。
• - 古家庫之助: 報道写真の権威であり、A新聞社の公募ニュース写真の審査委員長を務めている。

背景とエピソード

この作品は、1955年の紫雲丸事故をきっかけに構想が進められたとされ、報道写真が抱える倫理的な問題を掘り下げる内容としても知られています。特に著者は、イギリスの作家ロイ・ヴィカーズの作品からインスピレーションを受けたと語っており、そこから「百万に一つの偶然」というタイトルが本作に影響を与えています。著者の松本清張は、この作品を通じて報道写真が持つ力と、それに伴う責任、さらには人間の感情の絡み合いを描き出しています。

テレビドラマ

本作は1981年と2012年にテレビドラマ化されました。1981年版は日本テレビ系列の「火曜サスペンス劇場」で放送され、山内明子を中心にストーリーが展開されました。2012年版では、主人公の名前が変更され、父娘の関係が設定されるなどのアレンジが加えられました。特に2012年版では現在の社会背景を反映させる形で、新たな要素が盛り込まれ、視聴率も高い評価を受けました。

『十万分の一の偶然』は、単なるクライム・ミステリーに留まらず、報道の持つ影響力や人間の心理に深く切り込んだ作品であり、現代でも何かを考えさせられる要素を持っています。

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