十字架上のキリストの前に跪くブランデンブルクのアルブレヒト枢機卿

『十字架上のキリストの前に跪くブランデンブルクのアルブレヒト枢機卿』は、ドイツ・ルネサンスを代表する画家ルーカス・クラナッハ（父）が、1520年から1530年の間にマツ板に油彩で描いた絵画です。この作品は、元々アシャッフェンブルクの参事会聖堂に所蔵されていましたが、1829年にミュンヘンのアルテ・ピナコテークに移管され、現在に至ります。

この絵画は、十字架に架けられたイエス・キリストの前に、寄進者が跪いて祈りを捧げるという、17世紀頃まで記念肖像画において一般的な構図を用いています。描かれているのは、枢機卿アルブレヒト・フォン・ブランデンブルク（1490-1545）です。彼は、キリストが架けられた十字架の前で、ひざまずき、祈りを捧げています。背景には、ゴルゴタの丘から吹き荒れる嵐と、渦巻く雲が描かれています。アルブレヒトの肖像は、アルブレヒト・デューラーの版画を参考に描かれたと考えられています。

この作品が特筆すべき点は、従来のゴシック様式の寄進者を描いた絵画とは異なり、寄進者と神の仲介役となる守護聖人が描かれていないことです。アルブレヒト枢機卿は、キリストの前に直接描かれており、さらに、二人の身体の大きさはほぼ同じで、枢機卿がキリストより小さく描かれることもありませんでした。これは、世俗の人物の重要性と権力を強調する意図があったと考えられます。画面前景を占める赤い枢機卿の衣服は、特に目立ち、その人物像を際立たせています。アルブレヒトは、キリストを直接見つめているのではなく、視線を画面の外に逸らしているように見えます。これは、彼が心の中でキリストと向き合っていることを示唆しているのでしょう。

クラナッハは、本作で色彩画家としての優れた技量を示しています。枢機卿の衣服とクッションの鮮やかな赤色は、周囲の色との対比によって強調されています。また、鞭打たれたキリストの身体は、暗い背景の空と対照を成し、その痛々しい姿を際立たせています。全体として、この絵画は、伝統的な宗教画のテーマを用いながらも、ルネサンス期の新しい思想や表現を取り入れた、革新的な作品であると言えるでしょう。

参考文献
C.H.Beck『アルテ・ピナコテーク　ミュンヘン』、Scala Pulblishers、2002年刊行　ISBN 978-3-406-47456-9

外部リンク
アルテ・ピナコテーク公式サイト、クラナッハ『十字架上のキリストの前に跪くブランデンブルクのアルブレヒト枢機卿』 (英語)

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