十日の菊

十日の菊

三島由紀夫による戯曲『十日の菊』は、全3幕30場から構成される作品で、1936年（昭和11年）の二・二六事件を題材にしています。この作品は、主人公である大蔵大臣が命を狙われた当事者として描かれ、その悲喜劇的な側面から人間の性格や運命に迫ります。物語は、クーデターが起こってから16年後の1952年（昭和27年）、生き延びた大臣と、その命を助けた女中との再会を中心に展開します。

『十日の菊』は、実際の歴史的事件を「十・一三事件」として置き換え、そのヒロインである「菊」は主君への忠誠を象徴しています。しかし、彼女が表す忠節も9月9日の重陽節を過ぎて、すでに廃棄されたものであることを暗示しています。この戯曲は第13回（1961年度）の読売文学賞（戯曲部門）を受賞しています。

作品発表と経過

作品は1961年12月に『文學界』に掲載され、初演は同年11月29日に行われました。初めて戯曲集『三島由紀夫戯曲全集』に収録されたのは1962年です。その後、1966年には『英霊の聲』という作品集に収められました。

物語の設定

『十日の菊』の設定は、1952年から始まり、二・二六事件を模した架空のクーデターが背景にあります。この年は日本の歴史において重要な出来事が多く起こり、戦後の復興の中での一つの転換期を象徴するものであり、三島自身はその意味について言及しています。

登場人物と主題

物語の中心にいる森重臣は、69歳の元大蔵大臣で、16年前に助けられたことを振り返ります。彼を助けた菊は54歳になり、再会を果たしますが、その背景には悲劇的な思い出が横たわっています。三島は、登場人物たちの意志や行動が歴史的な運命とどのように交差しているかを描いています。また、彼は、観客がこの物語を喜劇や悲劇と解釈する自由を持つことを強調しています。

あらすじ

物語は、まず1952年10月13日の夜に設定され、当時の回想から始まります。森は、若い頃の栄光と、命を狙われた危険な事件を思い出し、家族との会話を通じてその思いを語ります。菊の再登場は、彼女が過去の罪を背負った母親として子を失った苦しみを抱える中で、再度の出会いがもたらす複雑な人間関係を浮き彫りにしていきます。

第2幕では、菊が森の家族との対立を通じて、自身の選択についての葛藤を描写します。彼女の過去の行動に対する疑念が深まり、森の子供たちとの間に緊張が高まります。

最後の幕では、菊が森に特別な感情を抱くことが示され、彼女の存在が森にとってどのような意味を持つのかが問われます。そして、卓越した演出のもと、家族の再会がもたらす感情的なクライマックスが描かれ、物語は深い余韻を残します。

作品評価

『十日の菊』は、発表当初から好意的に受け入れられ、読売文学賞を獲得しました。作品への評価は多岐にわたりますが、戯曲の展開に対する疑問も散見され、批評家たちは様々な視点からこの作品を分析しています。森の存在が日本社会の空虚さを象徴しているという指摘もあり、登場人物たちの関係性や心理描写が特に注目されています。

この戯曲は、三島由紀夫の意図するところが多くの層で解釈されており、戦後日本における人々の意識や歴史的視点を鏡のように映し出す重要な作品となっています。

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