十試水上観測機

十試水上観測機

十試水上観測機（じゅうしすいじょうかんそくき）は、大日本帝国海軍に向けて愛知航空機と三菱重工業が共同で試作した水上観察機である。メインの目的は短距離の偵察及び弾着観測であり、非常に高い空戦能力が求められた。

開発の経緯

1934年10月、海軍は短距離偵察をメインミッションとした複座水上偵察機の試作を愛知、三菱、川西航空機に依頼し、1935年3月に「十試水上観測機」という名称のもと、正式な試作指示を出した。愛知航空機では、技師の三木鉄夫が設計の主任に任命され、全金属製の胴体に木製の骨組みを持った主翼を装備した複葉機のデザインが行われた。

設計の特徴

愛知航空機が提案したこの機体は、可変ピッチ・プロペラや、昇降舵連動式の空戦フラップなど最新の技術を駆使して作られた。胴体には沈頭鋲が使用され、部品数を減少させることで機体の構造が簡略化される工夫も施されていた。エンジンは中島の「光一型」を搭載し、試作一号機は1936年6月に完成、続いて試作二号機もその年の9月に完成している。

試作二号機は陸上基地での運用を考慮して、車輪を装備した陸上型であった。海軍への納入前に、愛知航空機はさまざまな改造を行い、特にドウティー式の車輪の実験的な採用などが行われた。

審査と結果

試作された愛知機と三菱機は、両者ともに優れた性能を示したものの、空戦能力では三菱機がわずかに優位であった。一方で、速度に関しては愛知機が三菱機を25 km/h以上も上回るという結果が出ていた。このため審査は予想以上に長引くこととなり、海軍は両機の性能を慎重に比較検討した。

しかし、愛知機の主翼構造が木製であり、変形や腐食のリスクが高い点が問題視された。加えて、審査期間中に三菱機は新たな改良を行い、エンジンを「瑞星一三型」に換装したため、速度や運動性が飛躍的に向上した。これらの事情から、最終的に海軍は三菱機を採用し、愛知機は不採用となった。

スペック

試作一号機のスペックは以下の通りである。

• - 全長: 9.30 m
• - 全幅: 11.00 m
• - 全高: 4.10 m
• - 主翼面積: 28.00 m2
• - 自重: 1,400 kg
• - 全備重量: 2,100 kg
• - エンジン: 中島 光一型 空冷星型9気筒（最大820 hp） × 1
• - 最大速度: 394 km/h
• - 航続距離: 1,450 km（約8.5時間）
• - 実用上昇限度: 9,275 m
• - 上昇率: 3,000 m/4'26"
• - 武装: 7.7mm固定機銃（機首） × 2、7.7mm旋回機銃（後方） × 1
• - 乗員: 2名

このように、十試水上観測機はその革新的な設計と高い性能にもかかわらず、海軍の要求に合わなかったために不採用となる運命を辿ったものであった。

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