千日戦争

千日戦争（Guerra de los Mil Días）

千日戦争は、1899年から1902年までの約3年間（1095日）、コロンビアで発生した内戦です。この内戦は、結果としてアメリカ合衆国によるこの地域への政治的・軍事的介入を招き、1903年のパナマ独立の大きな要因となりました。

内戦勃発の背景

コロンビアは1819年の独立以来、中央集権を志向する保守党と連邦主義を掲げる自由党の二大政党制による議会制民主主義体制が確立していました。しかし、両党の対立は激しく、支持者同士による暴力的な衝突が頻発していました。

1890年には自由党の連邦主義者による武装蜂起が発生し、1895年にも同様の蜂起が起きました。1898年の総選挙は自由党のボイコットにより不成立となり、国民党のマニュエル・アントニオ・サンクレメンテが大統領に選出されましたが、病弱であったため、副大統領のホセ・マヌエル・マロキンが政務を代行しました。

内戦の勃発と泥沼化

1899年1月、コーヒー豆の国際相場が暴落し、保守党政権は関税収入の減少を補うために紙幣を増刷しました。これにより国家財政は破綻し、不換紙幣の乱発によるインフレーションが加速、経済は深刻な混乱に陥りました。

自由党の支持基盤であったコーヒー農家は各地で反乱を起こし、7月28日には自由党がサンタンデール県で反乱を起こしました。政府は戒厳令を布告しましたが、10月18日には自由党急進派のラファエル・ウリベ・ウリベ将軍、ベンハミン・エレーラ将軍、フスト・ドゥラン将軍らが蜂起し、千日戦争が勃発しました。

反乱軍はベネズエラからの軍事援助を受け、12月には自由党軍が保守党政府軍を撃破しました。保守党は国民党と超党派連合を組んで対抗し、一方、自由党穏健派は急進派との共闘を拒否しました。

1900年5月25日、パロネグロの戦いで自由党軍は国民党軍に大敗し、正規戦を断念、ゲリラ戦に転換し、その後2年にわたり抵抗を続けました。保守党による自由党員弾圧が強化され、自由党ゲリラの反撃で多くの人命が失われました。

7月31日、内戦の政治的解決を図る保守党伝統派（historicos）のホルヘ・モヤ・バスケス将軍がクーデターでサンクレメンテ大統領を追放し、後任に副大統領のマロキンを据えました。マロキンはいっさいの交渉を拒否し、徹底弾圧へと方針を転換しました。

1901年11月20日、アメリカ政府は国益保護のためコロンビアに軍事干渉を開始しました。

1902年6月12日、内戦の軍事的解決を断念した保守党政権は自由党との和解に乗り出し、自由党員への恩赦、自由選挙、政治・財政改革を約束しました。

11月21日、コロンビア政府と自由党は米艦ウィスコンシンで和平協定に署名し、協定に基づき自由党指導者は投降しました。内戦による死者は75,000人から150,000人に達すると推定されています。

アメリカ合衆国の干渉とパナマ独立

1903年1月22日、コロンビアとアメリカはヘイ・エルラン条約に調印しました。この条約は、10,000,000ドルの和解金と年250,000ドルの使用料で100年にわたるパナマ運河の建設権および運河地帯での行政権をアメリカに認めるというものでした。条約更新の優先権は米国側にあり、コロンビアはアメリカ合衆国以外の国に譲渡できないとする内容であり、コロンビアにとって屈辱的なものでした。

8月12日、コロンビア議会はパナマ運河条約の批准を否決しました。アメリカ合衆国はマロキン政権の打倒を画策し、11月3日、アメリカ合衆国政府はパナマ地方の反乱を支援しパナマ地峡を制圧、パナマ独立記念日となりました。

コロンビアでは翌年、保守党穏健派のラファエル・レイェスが大統領に当選しました。レイェスはパナマの軍事的奪還を断念し、国内開発を進めるため1909年にアメリカ合衆国との間にトンプソン・ウルティア条約を締結しました。この条約は否決されましたが、以後、米国による米州地域への政治的・軍事的干渉は強まり、ラテンアメリカ諸国は「アメリカ合衆国の裏庭」と揶揄されるようになりました。

参考文献

* 寺澤辰麿『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』、アジア経済研究所、2011年。ISBN 4258051136

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