千歳丸 (江戸幕府)

千歳丸（せんざいまる）

千歳丸は、幕末に江戸幕府が保有した洋式船で、同名の船が2隻存在します。初代は貿易船として上海に派遣され、2代目は明治政府に引き渡されました。

初代 千歳丸

初代「千歳丸」は、元々イギリスの商船「アーミスティス」として1855年に建造されました。イギリスのサンダーランドで建造された木造帆船で、3本マストを持つバーク型帆船でした。排水量は256トンまたは358トンとされています。

1862年（文久2年）、江戸幕府は長崎でこの船を34000ドルで購入し、「千歳丸」と命名しました。幕府は、この船を中国との貿易の試験船として活用することを計画しました。

1862年5月27日（文久2年4月29日）、「千歳丸」は長崎を出帆し、6月3日（同5月6日）に上海に入港しました。これは、漂流や琉球王国の朝貢を除けば、日本人が公式に中国を訪れた2世紀ぶりの出来事でした。

乗船者には、勘定方の根立助七郎をはじめとする幕府役人の他、高杉晋作（長州藩）、中牟田倉之助（佐賀藩）、五代友厚（薩摩藩、名目は水夫）、峰源助（大村藩）、納富介次郎（小城藩）などの諸藩士、そして長崎商人など、総勢51名から53名がいました。船長は名目上は沼間平六郎でしたが、実際の操縦はイギリス人を中心とした16人の外国人船員が担当しました。

乗船した日本人一行は、アロー戦争で敗北し、半植民地化された中国の実情、太平天国の乱による混乱、上海租界の繁栄と民衆の貧困などを目の当たりにしました。これらの経験は、彼らに海防に対する強い危機感や中国への軽蔑感をもたらし、その後の日本の近代化路線に大きな影響を与えました。

貿易については、清朝の海禁政策により制限されました。清朝の総理衙門は、中国産品の購入を許可せず、日本からの輸出品については、現地のオランダ商人を通じて行うという、今回限りの特例措置としました。日本側は乾貨や漆器などを持ち込みましたが、太平天国の乱の影響もあり、売れ行きは芳しくありませんでした。しかし、五代友厚などは列強の商人と取引を行い、艦船を購入しています。

貿易拡大の交渉は難航しましたが、その後1864年（元治元年）には、箱館奉行主導で新たな貿易船「健順丸」が上海に派遣されています。

「千歳丸」は7月14日に長崎へ帰国し、翌1863年2月にイギリス商船「ヴィクトリア」（後に「長崎丸一番」と改名）と交換され、幕府の所有を離れました。

2代目 千歳丸

2代目「千歳丸」は、イギリスの商船「ラウアリ」として1865年に建造されました。アバディーンのジョン・スミス社で建造された木造バーク型帆船で、長さ23間、幅4間1尺、深さ2間2尺、トン数323トンでした。

1865年9月25日（慶応2年）、幕府はこの船を30000ドルで購入し、「千歳丸」と名付けました。

2代目「千歳丸」は、明治維新後、明治政府に引き継がれ、その後の日本の近代化に貢献しました。

まとめ

千歳丸は、幕末の日本にとって重要な役割を果たした洋式船です。初代は、日本人の中国への渡航を促進し、日本の近代化の機運を高める上で重要な役割を担いました。2代目は、明治政府に引き継がれ、日本の近代化に貢献しました。

参考文献

伊藤節子 「幕府天文方渋川景佑と大村藩天文学者峯源助の学問的交流」『国立天文台報』Volume 7、No.1-2、2004年。
閻立 「清朝同治年間における幕末期日本の位置づけ―幕府の上海派遣を中心として」『大阪経大論集』59巻1号、2008年。
勝海舟 『海軍歴史』復刻版 原書房〈明治百年史叢書〉、1967年。
杉山伸也『明治維新とイギリス商人　トマス・グラバーの生涯』岩波書店、1993年、ISBN 4-00-430290-0
横山宏章 「文久二年幕府派遣「千歳丸」随員の中国観―長崎発中国行の第1号は上海で何をみたか」『長崎県立大学国際情報学部研究紀要』3巻、2002年。

関連文献

宮永孝 『高杉晋作の上海報告』 新人物往来社、1995年。
* 佐藤三郎 「文久2年に於ける幕府貿易船千歳丸の上海派遣について―近代日中交渉史上の一齣として」『山形大学紀要・人文科学』第7巻第2号所収、1970年。

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