半井成近

半井成近：江戸幕府を支えた名医の生涯

半井成近（なからい なりちか）は、江戸時代初期に活躍した医師であり、4代半井驢庵（ろあん）としてその名を知られています。徳川幕府において奥医師の長である典薬頭（てんやくのかみ）を務め、将軍やその家族の健康を支えました。本稿では、彼の生涯、業績、そして家族構成について詳細に解説します。

生い立ちと初期の活動

半井成近は、代々医家である半井驢庵家に生まれました。父は利親（としちか、瑞玄）。母は、戦国武将である藤堂高虎の娘という名門の血筋を引いています。若くして父を亡くした後、祖父である3代驢庵・半井成信（なりざね、瑞桂）から驢庵の号を譲り受け、医家としての道を歩み始めます。

寛永元年（1624年）には江戸に召し出され、徳川家光に仕えることになります。寛永5年（1628年）には、家光の疱瘡（ほうそう）や瘧疾（ぎゃくしつ）の治療に尽力し、その医学的才能を発揮しました。寛永7年（1630年）には、幕府の推薦により朝廷から素絹（そけん）の着用を許されるなど、その功績は高く評価されました。

幕府医官としての活躍

寛永8年（1631年）には、奥医師の筆頭として将軍に拝謁。寛永9年（1632年）には、相模国高座郡（現在の神奈川県海老名市）に1000石の知行地を与えられました。これは、彼の医学的才能と幕府への貢献に対する顕著な評価の証と言えるでしょう。

寛永10年（1633年）には、将軍の命を受け、小田原藩主・稲葉正勝の病気を診察するために小田原へ派遣されるなど、その活動範囲は幕府内に留まらず、広く社会に貢献しました。寛永14年（1637年）には、家光の病気治療にもあたりました。また、蔵書である医学書『聖済総録』の欠本を幕府所蔵本から写本して補完するなど、学術的な貢献も行いました。

一時、家光の勘気を被り奥医師から外される時期もありましたが、寛永15年（1638年）には赦免され、職務に復帰しています。

朝廷への奉仕と晩年

成近は、江戸在住後も隔年で京都に赴き、朝廷に奉仕しました。寛永16年（1639年）には、家光の命を受け、京都で「御咳気（おせき）」を患った東福門院（徳川秀忠の正室）の治療にあたりました。同年6月には、久志本常尹（くしもと つねただ）と交互に朝廷に勤仕するよう命じられています。

同年6月15日、祖父の遺領であった山城国愛宕郡内の500石と合わせ、合計1500石を知行しましたが、同年10月9日に京都でその生涯を閉じました。

驢庵屋敷

寛永元年（1624年）に幕府に召し出された際、成近（驢庵）の屋敷は元吉原（現在の中央区日本橋人形町付近）に設けられました。その後、子の半井成忠（5代驢庵）の時代に明暦の大火で焼失し、小川町・表猿楽町に移転しています。

相模国の知行地である高座郡本郷村（現在の神奈川県海老名市本郷）には下屋敷が設けられ、「驢庵屋敷」として知られていました。付近には「驢庵坂」などの地名が残り、1936年には「驢庵半井瑞寿館阯之碑」が建立されています。また、成近が植えたとされるハルニレの木（有馬のハルニレ）が現在も残っています。

家族構成

『寛政重修諸家譜』によれば、成近には以下の子供たちがいました。

長男：半井成忠（5代驢庵）
二男：半井瑞春
女子：清水瑞室（亀庵）の妻。後に清水亀庵家が断絶したため、半井家に帰る。
三男：半井杏庵

母は藤堂高虎の娘、妻は横浜一庵（正勝）の娘であり、半井家・藤堂家・横浜家は重縁関係にありました。

半井成近は、江戸時代初期の医学界において重要な役割を果たした人物であり、徳川幕府の医療体制の確立に大きく貢献しました。彼の業績は、後世に語り継がれるべきものでしょう。

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