卵割

卵割（cleavage）

卵割とは、受精卵に起こる初期の細胞分裂過程であり、発生の最初の段階にあたります。受精卵がまるで「割れる」ように見えることからこの名が付けられました。

概説

卵割は、通常の体細胞分裂とは異なり、いくつかの特徴があります。

細胞の成長を伴わない分裂: 分割された細胞（割球）は成長せず、胚全体の質量はほぼ変化しません。結果として、卵割が進むにつれて割球のサイズは小さくなります。
同調的な細胞分裂: 細胞分裂はほぼ同時に進行し、卵の細胞数は2の累乗で増加します。
連続的な分裂: 分裂は連続して起こり、例えばウニの場合、最初の分裂後はおよそ30分ごとに分裂が繰り返されます。
迅速な進行: 卵割が通常の細胞分裂よりも速いのは、必要なタンパク質を合成するためのmRNAが、卵の成熟過程で母親から供給されているためです。胚自身のゲノムからの転写は、両生類では胞胚期の中頃から始まります。

卵割が進んだ受精卵は割球の数を増やし、桑実胚を経て胞胚へと発達します。

卵割様式

卵割の様式は動物群によって異なり、主に卵黄の分布と割球の位置関係によって分類されます。

分割様式

全割（holoblastic cleavage）: 卵全体が完全に分割される様式です。
等割（equal cleavage）: 卵割後の割球の大きさが均等です。
不等割（unequal cleavage）: 卵割後の割球の大きさに差があります。
部分割（meroblastic cleavage）: 卵の一部のみが分割される様式です。
盤割（discoidal cleavage）: 動物極側のみが卵割する様式で、鳥類や爬虫類などの卵黄が多い卵に見られます。
表割（superficial cleavage）: 卵の中心部で核分裂が起こり、その後、核が卵の表面に移動して表面のみが卵割する様式で、昆虫などの卵に見られます。

卵の種類

卵黄の量と分布によって、卵は以下のように分類されます。卵黄は細胞分裂を阻害する働きがあるため、その量と分布は卵割様式に大きく影響します。

等黄卵（isolecithal egg）: 卵黄の量が少なく、均一に分布しています。全割で等割となることが多いです。
端黄卵（telolecithal egg）: 卵黄の量が多く、卵の一方の極（植物極）に偏って分布しています。卵黄の量が少ない場合は全割となることもありますが、多い場合は部分割（盤割）となります。
心黄卵（centrolecithal egg）: 卵黄が卵の中心部に集中して分布しています。表割を行います。

割球の配置

卵割によって生じる割球の配置には、いくつかのパターンがあります。

放射卵割（radial cleavage）: 割球が放射状に配置される卵割様式です。
螺旋卵割（spiral cleavage）: 割球が螺旋状に配置される卵割様式で、軟体動物や環形動物に見られます。

系統との関係

卵割様式は、卵黄の量や配置と密接な関係があります。卵黄の量は、胚や幼生が置かれる環境に適応した結果であると考えられます。例えば、等黄卵は、プランクトンとして生活する小さな幼生を持つ動物や、胎生である哺乳類で見られます。一方、極端な端黄卵は、爬虫類や鳥類、そして一部の魚類で見られます。これらのことから、卵割様式と系統の関係は必ずしも強くありません。

しかし、螺旋卵割は軟体動物や環形動物に共通して見られる特徴であり、系統との関連が強いと考えられています。

極葉（polar lobe）

螺旋卵割を行う軟体動物や環形動物では、卵の植物極側に極原形質という特殊な領域が見られ、卵割時にこの部分が突出して極葉と呼ばれる構造を形成することがあります。極葉は、中胚葉の形成など、発生過程において重要な役割を果たします。

参考文献

東中川徹・八杉貞雄・西駕秀俊、『ベーシックマスター 発生生物学』､(2008)、オーム社、ISBN 978-4274205996
市川衛、『基礎発生学概論 新版』、(1988)、裳華堂

関連項目

胚発生
* モザイク卵

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