原爆傷害調査委員会

原爆傷害調査委員会（ABCC）とは

原爆傷害調査委員会（Atomic Bomb Casualty Commission, ABCC）は、1945年に広島と長崎に投下された原子爆弾による人体への影響を調査するために、アメリカ合衆国によって設立された機関です。この機関は、被爆者の健康状態を長期にわたって追跡し、放射線が人体に与える影響に関する貴重なデータを提供しました。しかし、その活動は被爆者から「自分たちが研究材料にされた」という強い批判も受けています。

設立と運営

ABCCは、米国科学アカデミー（NAS）によって1946年に設立されました。当初の運営資金はアメリカ原子力委員会（AEC）が提供しましたが、その後、アメリカ公衆衛生局、アメリカ国立癌研究所、アメリカ国立心肺血液研究所からも資金提供を受けるようになりました。1948年には、日本の厚生省国立予防衛生研究所が正式に調査プログラムに参加しました。

広島市比治山の山頂（旧陸軍墓地）に建設されたABCCの施設は、カマボコ型の特徴的な建物でした。ABCCはあくまで調査を目的とした機関であり、被爆者の治療は一切行いませんでした。そのため、被爆者は健康診断を受けたものの、その結果が治療に結びつかないことに不信感を抱き、ABCCを強く批判しました。

調査研究の成果と影響

ABCCによる調査研究は、放射線が人体に与える影響に関する重要なデータを提供し、その後の放射線影響研究の基礎となりました。特に、白血病やがんなどの放射線関連疾患の発症リスクに関するデータは、国際的な放射線防護の基準策定に大きな影響を与えました。しかし、これらのデータは、被爆者の犠牲の上に成り立っているという事実を忘れてはなりません。

組織改編と現在

1975年、ABCCは厚生省国立予防衛生研究所（予研）原子爆弾影響研究所と再編され、日米共同出資運営方式の財団法人放射線影響研究所（RERF）に改組されました。RERFは現在も被爆者の健康影響に関する調査研究を継続しており、その成果は国際社会に共有されています。

ABCCの歴史

1945年
8月：広島と長崎に原子爆弾が投下。
9月：日米合同調査団が被爆者調査を開始。
1946年
11月：トルーマン米大統領がABCC設立を指示。
1947年
3月：広島赤十字病院内にABCC開設。
1948年
1月：厚生省国立予防衛生研究所がABCCの研究に参加。
7月：長崎ABCCを開設。
1949年
7月：比治山に研究施設建設を開始。
1950年
10月：全国原爆被爆生存者調査を実施。
1951年
1月：胎内被爆児調査開始。
1955年
11月：フランシス委員会が研究計画の見直しを勧告。
1975年
4月：放射線影響研究所（RERF）が発足。

関連文献

ABCCの活動に関する様々な報告書や文献が発表されています。以下はその一部です。

『原爆傷害調査委員会業績報告書』（1959年 - 1975年）
『原爆傷害調査委員会年報』（1957年 - 1975年）
『原爆傷害調査委員会 1974-1975 ABCC-予研共同研究総括報告書』（1978年）
『ABCC発表要覧』（1963年）
『ABCC-予研病理学的調査広島・長崎 作業要綱』（1963年）
国立予防衛生研究所・原爆傷害調査委員会編『ABCC20年の歩み』（1966年）
『ABCC業績報告書および関連発表論文 1959-66年』（1967年）
『予研-ABCC共同研究20年の歩み』（1969年）
原爆傷害調査委員会編『ABCC発表論文目録 : 1947-1974』（1974年）
笹本征男『米軍占領下の原爆調査 原爆加害国になった日本』（1995年）

外部リンク

ABCC（原子力百科事典 ATOMICA）
放射線影響研究所
* ABCCの設置（広島平和記念資料館）


ABCCは、被爆者の健康影響を調査し、放射線の人体への影響に関する重要なデータを提供した一方で、被爆者からは「研究材料にされた」という批判も受けていることを忘れてはなりません。この歴史的事実を教訓として、二度と核兵器が使用されないように国際社会全体で取り組む必要があります。

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