比治山

比治山：歴史と自然が織りなす広島の丘

比治山は、広島県広島市南区に位置する標高71.1mの丘陵地です。本稿では、比治山公園とその周辺地域を包括的に解説します。比治山という地名は、比治という人物が居住していたという説や、山の形状が肘を曲げた形に似ているという説など、複数の由来が伝えられています。「臥虎山」という別名も存在したようです。

比治山の地理と歴史

比治山は、太田川水系の支流である猿猴川と京橋川の分岐点南側に位置し、比治山公園、比治山町、比治山本町といった地区に分けられています。比治山公園は、市内中心部の貴重な緑地として、市民に憩いの場を提供しています。特に、春の桜の開花時期には多くの観光客が訪れ、夜桜を楽しむこともできます。

歴史を紐解くと、縄文時代草創期には孤島であった比治山も、縄文晩期には太田川の土砂の堆積により陸地化が進みました。古代には、比治山の北側にある二葉山麓まで海が迫っており、菅原道真も大宰府への左遷の際にこの地を訪れたと伝えられています。中世から近世にかけては、太田川下流域の三角州の発達に伴い、比治山は本州と完全に陸続きとなりました。戦国時代には毛利元就が比治山を拠点とすることを検討していたという説もあります。

広島城築城以降、比治山の周辺地域は発展を遂げます。比治山の北側には西国街道が通り商業地として栄え、東側の猿猴川沿いに「比治村」が形成されました。南側は宝暦3年（1753年）の干拓事業以降、明治時代まで開発が続けられました。比治山そのものは、江戸時代は藩有林、明治末期までは国有林として保全されてきました。

明治5年（1872年）には旧日本陸軍が陸軍墓地の整備を開始し、明治31年（1898年）には比治山と江波山が公園として整備されることが許可されました。明治41年（1908年）からは広島市が本格的な公園整備に乗り出し、戦前から市内有数の桜の名所として知られていました。ツツジの名所としても有名でした。明治42年（1909年）には御便殿が移設され、陸軍墓地と共に比治山の二大名所となりました。

戦前には、船舶砲兵団司令部や電信第2連隊が駐屯していました。大正9年（1921年）には陸軍第5倉庫で火災が発生し、多くの死傷者が出ました。昭和20年（1945年）の原爆投下では爆心地から約1.8km離れていましたが、西側は壊滅的な被害を受け、一方、東側は比治山が爆風を遮ったため被害が少なかったという対照的な状況が見られました。被爆後も比治山は公園として整備され、昭和24年（1949年）には原爆傷害調査委員会（ABCC）が開設されました。戦後、東側には宇品線が、南側には新広島バイパス（国道2号）が通りました。

昭和55年（1980年）、広島市の政令指定都市移行を記念し、「芸術公園」としての整備が決定され、モニュメントが設置されました。広島市現代美術館や広島市立まんが図書館（旧比治山公園青空図書館）などが建設されたのもこの頃です。1990年代には比治山トンネルが開通したことで、広島市中心部と段原地区のアクセスが大幅に向上しました。

比治山公園：自然と文化の融合

比治山公園は、比治山トンネル付近で南北に二分され、南側に頂上があります。頂上付近は比較的平坦ですが、周囲は急斜面となっています。周辺の土地開発により、比治山の元の形状は変化しています。地質は、太田川下流域に特徴的な広島花崗岩類とマサ土で構成され、この花崗岩は毛利輝元による広島城築城の際にも使用されました。

比治山公園は、市中心部において黄金山と共に貴重な自然が残された場所です。中世より渡り鳥の休憩地として知られ、江戸時代にはソデグロヅルも飛来していました。現在も様々な渡り鳥が確認されています。江戸時代には藩有林として伐採や狩猟が禁止されていたため、多様な生物が生息していました。現在も市内有数の桜の名所として知られ、1300本の桜が咲き誇る様子は、多くの観光客を魅了しています。

比治山公園へのアクセスは、比治山下電停付近の入口と、比治山スカイウォークが一般的です。公園内には駐車場も整備されています。広島イースト（旧広島サティ）3階からは、動く歩道とエスカレーターで山頂まで行くことができます。

比治山周辺の施設と交通

比治山周辺には、比治山町と比治山本町が存在します。戦後の住居表示変更により現在の町名となっています。広島県立広島産業会館、広島産業文化センター、広島市立南区図書館、比治山下公園、比治山本町郵便局など、多くの公共施設が立地しています。また、比治山幼稚園などの教育機関もあります。かつては、広島県師範学校や陸軍電信第二連隊などが存在していましたが、現在は跡地が残るのみです。交通アクセスは、国道2号、広島県道37号広島三次線、広島電鉄皆実線が通っており、比治山下停留場、比治山橋停留場、南区役所前停留場などが利用できます。比治山トンネル、鶴見橋、比治山橋、平野橋といった橋梁も重要な交通インフラとして機能しています。

比治山に関連するその他情報

比治山には、NHK比治山テレビ放送所（現在はNHK-FMのみ送信）、加藤友三郎および早速整爾銅像台座（台座のみ残存）、正岡子規句碑、原爆被災説明板、雲霓橋などの史跡や施設があります。

まとめ

比治山は、歴史と自然が織りなす広島を代表する場所です。古くからの歴史、豊かな自然、そして現代の文化施設が調和した魅力的な地区として、これからも広島市民や観光客に親しまれることでしょう。

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