原胤敦

原胤敦：蝦夷地開拓と国書編纂に携わった八王子千人同心の頭

原胤敦（はら たねあつ、1749年-1827年）は、江戸時代後期に活躍した人物です。千葉氏支流原氏の出身で、甲斐武田家の家臣原胤歳の末裔にあたります。八王子千人同心の頭を務めたことで知られており、通称は半左衛門でした。

彼の生涯において最も重要な業績は、蝦夷地での開拓事業への尽力です。自ら100名の八王子千人同心子弟を率いて蝦夷地へ赴任しました。寛政12年（1800年）、北方警備と地域開発を目的として、一行は箱館から分かれて活動を開始します。胤敦自身は白糠（釧路近郊）へ、弟の新助は勇払（苫小牧近郊）へとそれぞれ移住しました。この道中では、有名な測量家である伊能忠敬と出会うというエピソードも残されています。

白糠での開拓は過酷を極めました。極寒の地での生活は多くの犠牲者を出し、16名もの死者が出ています。しかし、その功績は認められ、文化元年（1804年）2月には箱館奉行支配調役に任命されました。配下となった者たちは地役御雇となり、各地で警備や開拓に従事することになります。

その後、胤敦は苫小牧から斜里郡に至る斜里山道（斜里越）の開削にも携わりました。しかし、この事業もまた困難を極め、多くの病気や死者が出たため、開拓者たちは文化2年（1805年）までに多摩地域へ戻ることとなります。胤敦自身も文化5年（1808年）に八王子へ帰国しました。この蝦夷地での開拓事業は、後に八王子市と苫小牧市の姉妹都市締結へと繋がっています。

開拓事業以外にも、胤敦は文化10年（1813年）には幕府の命を受け、塩野適斎、植田孟縉らと共に『新編武蔵風土記稿』の編纂に参加しています。これは武蔵国（現在の東京都と埼玉県の大部分）の地理、歴史、文化などを詳細に記した重要な地誌です。

晩年は八王子で過ごし、没後は東京都八王子市上野町の本立寺に埋葬されました。

胤敦の孫、原胤禄は天保元年（1830年）に『新編相模国風土記稿』津久井県の部10巻を幕府に献上しています。また、彼の家系は、一魁斎芳年筆「川中嶋大合戦之図」で知られる原虎吉（胤歳）一族と繋がりがあります。八王子千人同心子弟による2回目の蝦夷地移住は安政6年（1858年）に行われています。

原胤敦は、蝦夷地開拓という過酷な事業に身を投じ、その功績を残しただけでなく、『新編武蔵風土記稿』編纂にも携わるなど、多方面で活躍した人物でした。彼の生涯は、江戸時代後期の日本社会の様々な側面を垣間見ることができる貴重な歴史資料となっています。彼の功績は、現代においても八王子市と苫小牧市の姉妹都市関係という形で受け継がれています。

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