新編相模国風土記稿

『新編相模国風土記稿』は、江戸時代後期に編纂された相模国（現在の神奈川県）に関する地誌です。126巻にも及ぶ大規模なもので、林述斎（林衡）の建議に基づき、昌平坂学問所地理局が中心となって天保12年（1841年）に完成しました。

この地誌は、天保元年（1830年）に完成した『新編武蔵風土記稿』を範として編纂されており、編集方針や構成も類似しています。膨大な数の古文書や古記録を精査し、相模国に属する郡や村の歴史、地理、風習などを詳細に記述しています。三浦郡池子村のみが未掲載という例外を除き、相模国のほぼ全域を網羅した、極めて包括的な内容となっています。

『新編相模国風土記稿』の特徴として、多様な情報源の活用が挙げられます。編纂にあたっては、様々な古文書や古記録が参照されており、それらの情報に基づいて、各郡村の成立、変遷、人口、産業、特産品、名所旧跡、伝承など、多角的な視点から詳細な記述がなされています。単なる地理的記述にとどまらず、歴史的、文化的な側面にも光を当てている点が、この地誌の大きな価値となっています。

編纂に携わった人物についても注目に値します。八王子千人同心という組織の千人頭を務めた原胤禄が編集の中心人物の一人として名を連ねています。八王子千人同心は、江戸幕府の直轄領である八王子地域における治安維持を担っていた組織であり、その関係者による地誌編纂は、幕府の政策や地方行政の実態を理解する上で重要な手がかりとなります。

『新編相模国風土記稿』は、相模国の郡や村の歴史を研究する上で極めて重要な史料です。特に、近世相模国の社会構造、経済状況、文化、そして人々の生活様式などを理解する上で、この地誌は他に類を見ないほどの貴重な情報源となっています。『皇国地誌残稿』と共に、相模国研究においては必携の文献と言えるでしょう。

現在では、『大日本地誌大系』に収録されており、広く一般に閲覧可能です。また、国立公文書館デジタルアーカイブや近代デジタルライブラリー（国立国会図書館）などでもデジタル化されたものが公開されており、容易にアクセスして利用することが可能です。これらのデジタルアーカイブの活用により、より多くの研究者や一般の人々が『新編相模国風土記稿』の内容に触れる機会が増えることが期待されます。

『新編相模国風土記稿』は、単なる地誌にとどまらず、江戸時代の相模国の社会、文化、歴史を深く理解するための鍵となる貴重な文献です。その詳細な記述と多様な情報源の活用は、現代の研究においても大きな意義を持ち続けています。

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