厳忠範

厳忠範（生年不詳 - 1275年）は、金朝末期にモンゴル帝国に帰順し、東平一帯に強大な軍閥を築いた厳実の子息です。兄には厳実の後を継いだ厳忠済がいました。

13世紀後半、モンゴル帝国内で帝位継承を巡る内紛が勃発。クビライは、帝国の承認を得ずに即位を宣言し、華北を支配する漢人世侯たちの存在を警戒していました。中でも、厳忠済は「諸侯の中で最も強横で制御が難しい」と評され、クビライにとって大きな懸念材料でした。

1261年、クビライは厳忠済を自身の拠点である開平に呼び出します。そして同年5月、厳忠済は突如として全ての官位を剥奪され、代わりに厳忠範が東平総管に任命されるという事態が発生しました。この背景には、漢人世侯の勢力を削ぎたいクビライと、兄の地位を奪いたいという野心を持つ厳忠範の思惑が一致したことがありました。

クビライの後ろ盾を得て厳忠済の地位を奪った厳忠範でしたが、その後、漢人世侯の削減政策は着々と進められ、東平厳氏の軍閥としての実態は徐々に解体されていきました。

軍閥としての力を失った後も、厳忠範はモンゴルに仕え続け、南宋との戦いに従事しました。1270年頃からは四川方面に派遣され、イェスデルとともに嘉定・重慶・釣魚山・馬湖江などで南宋軍を破るなどの戦功を挙げました。しかし、1272年には成都での南宋軍との戦いで敗北し、京に送還される憂き目に遭います。その後、赦免された記録が残っています。

1275年正月、厳忠範は兵部尚書の廉希賢、工部侍郎の厳忠範、秘書監丞の柴紫芝らと共に、南宋へ国書を届ける使者として派遣されました。しかし、同年3月、独松関に到着したところで南宋の人々に暗殺されてしまいました。

厳忠範は、モンゴル帝国の勢力拡大に貢献した一方で、権力闘争に翻弄され、悲劇的な最期を遂げた人物として歴史に名を残しています。

参考文献
愛宕松男『東洋史学論集　4巻』三一書房、1988年
杉山正明『耶律楚材とその時代』白帝社、1996年
* 藤野彪／牧野修二編『元朝史論集』汲古書院、2012年

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