漢人世侯

漢人世侯（かんじんせこう）とは

漢人世侯は、モンゴル帝国の時代に生まれた特異な制度で、金末にモンゴル帝国に降伏した漢人の有力者たちが、貢納や軍事的協力を行う代わりに、自らの管轄下の人民に対する支配権をモンゴルから委譲される形で成立しました。しかし、1262年に発生した李璮の乱が契機となり、漢人世侯の制度は実質的に崩壊し、大元ウルス（元朝）による華北地方への直接支配へと移行しました。

チンギス・カンの時代

大モンゴル帝国は1206年に建国され、複数の皇族や功臣たちが統治する連合体でした。これに従い、征服戦争を通じて得た土地や人民は、その地を征服した者たちの所有物とされていました。1211年から始まる金朝に対する遠征の中で、その原則は適用され、華北ではモンゴルの軍勢が南下しました。しかし、攻略した都城を保持せず転戦を続けた結果、華北での統治体制は確立されることなく、モンゴル軍が有効な支配を行うことはできませんでした。

この時点で自発的に投降した漢人有力者は、僅か数名に過ぎず、彼らは結局1214年にモンゴルと金朝間での和議成立により、北方へ移住することとなりました。そのため、モンゴルは華北には基盤を築けず、数年間にわたりこの状態が続きました。一方、金朝側は最初の戦闘で大敗を喫し、対応策が打たれるも、その効果は限定的でした。

河北地方では、地元の有力家系の下に集結した自治組織や武力団体「義軍」が形成され、これが後の漢人世侯の起源となりました。1217年にはムカリが金朝に対する駐留軍を指揮し、多くの漢人有力者が彼を通してモンゴルに降伏します。この動きにより、漢人世侯の形成が始まりましたが、地域間でのモンゴルへの態度の相違が見られました。

力の均衡

1219年、オゴデイが即位すると、彼は漢人世侯を「三万戸」（tümen）に編成し、新たな支配者を任命しました。この時、オゴデイは金朝への二次侵攻を行い、1234年に金朝を滅ぼします。金朝崩壊後、漢人世侯の再編が行われると共に、オゴデイは華北全土で人口調査を行い、その結果を元に土地の再分配を実施します。

華北での土地再分配により、各領主の支配権が整理され、これが後の元代の地方行政の基礎を形成しました。また、オゴデイの治世の施策としては、具体的な支配権の再確認が行われ、多くの有力者が新たに地位を得るなどしました。

征軍と内戦

オゴデイの死後、モンゴル帝国では権力を巡る内紛が続き、帝位継承戦争が勃発します。この中で、史天沢ら漢人世侯がクビライに仕官し、彼の親征にも参加しました。しかし、1259年にモンケが急死し、クビライ系の勢力が台頭する中、漢人世侯はその存在が危険視され始めます。国制の安全を守るため、クビライは「十路宣撫使」を任命し、漢人世侯の監視を強化します。

この対応に対し、漢人世侯の中でも特に山東地方で不満が高まり、李璮が反乱を起こします。1262年、李璮の反乱は直ちに鎮圧されましたが、その後も漢人世侯は新たな弾圧の対象となりました。最終的に、1264年12月に漢人世侯の制度は廃止されることとなり、モンゴルの直接統治が確立しました。

結論

漢人世侯は、モンゴル帝国の興亡の中で形成され、その後急激に解体されていく制度でした。この制度を通じて、漢人有力者たちの権益の行使が行われたものの、最終的には中央集権へと移行し、モンゴルの政治体系に組み込まれていきました。

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