厳実

厳実（げん じつ）

厳実（1182年 - 1240年）は、金末からモンゴル帝国初期に活躍した漢人世侯の一人です。字は武叔。現在の山東省泰安市長清県出身で、東平（現在の山東省東平県）を拠点とする一大軍閥を築き上げました。史天沢、張柔、張栄らと並び、漢人世侯の四大軍閥と称されています。

生涯

金朝での台頭

若い頃から文武両道に秀でていた厳実は、1213年にチンギス・カン率いるモンゴル軍が華北に侵攻すると、東平行台で民兵を組織し百戸に任じられました。1214年には、泰安州の軍閥である張汝楫の侵攻を撃退するなどの功績を挙げ、その頭角を現しました。

南宋への一時的な帰属

1218年、南宋が華北領土の回復を目指し山東地方へ出兵すると、東平行台は一時的に南宋軍に制圧されました。厳実は軍を率いて東平を奪還しましたが、この一件がきっかけで、東平行台内で南宋との内通を疑われるようになり、最終的に南宋側につくことになります。南宋の支援を得た厳実は周辺地域を制圧し、太行山脈東部一帯を勢力下に置きました。

モンゴル帝国への帰順

1220年、金軍が彰徳を包囲した際、南宋に援軍を要請するも拒否されたため、単独で救援に向かいましたが間に合わず、これを機に南宋への不満を募らせます。同年7月、遂にモンゴル帝国への帰順を決意し、チンギス・カンから華北経略を命じられていたムカリの軍門に降りました。この時、厳実が支配していた地域は30万戸に及ぶ大勢力であり、ムカリは彼を金紫光禄大夫・行尚書省事に任じました。モンゴルに帰順後、厳実は曹州・濮州・単州などを攻略し、華北平定に大きく貢献しました。翌年には金朝の将軍、李信を破り、再び東平を拠点としました。

彭義斌との戦いと領土回復

1222年、大名を拠点とする彭義斌が厳実の勢力圏に侵攻し、配下の将軍、晁海が彭義斌に投降したため、一部郡県を奪われる事態となりました。1225年には彭義斌による東平包囲を受け、モンゴルからの援軍が到着するまでの間、食糧不足のため一時的に彭義斌に降伏しました。しかし、彭義斌が真定を攻略した際、モンゴル軍と遭遇すると彭義斌を裏切り、モンゴル軍に協力して彭義斌を打ち破り捕らえました。彭義斌の没落後、厳実は奪われた領土を回復し、宋子貞ら旧彭義斌の配下を取り込み、再びモンゴル軍に協力するようになりました。

モンゴル帝国への貢献と東平の繁栄

1230年、オゴデイに謁見し、その地位を改めて承認されました。1234年には、モンゴル帝国の首都カラコルムを訪れ、「東平路行軍万戸」に任じられました。厳実の統治下にあった地域は「東平五十四城」と称され、宋子貞の尽力により学問が奨励されたため、東平は華北における学問・文化の中心地として繁栄しました。

1240年、59歳で死去。その死は多くの人々に惜しまれました。子には厳忠貞、厳忠済、厳忠嗣、厳忠範、厳忠傑、厳忠裕、厳忠祐らがいます。

人物・逸話

厳実は、軍事的な才能だけでなく、文化の振興にも尽力したことで知られています。東平府学を整備し、閻復、徐琰、李謙、孟祺といった東平四傑をはじめとする多くの高官や文人を輩出しました。彼の文化的貢献は、モンゴル帝国における漢文化の維持・発展に大きく寄与したと言えるでしょう。

参考文献

杉山正明『耶律楚材とその時代』白帝社、1996年
杉山正明『モンゴル帝国と大元ウルス』京都大学学術出版会、2004年

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