取得原価主義
取得原価主義について
取得原価主義（しゅとくげんかしゅぎ）とは、資産を評価する際に、その取得時の原価を基に判断する会計手法です。この手法は、一般的に時価主義と対を成しており、企業の財務状況をどのように示すかに大きな影響を与えます。取得原価主義の主な理由は、株主への利益分配（配当）の算定においてより明確で誤解が少ないからです。
取得原価主義の意義
取得原価主義が広く採用されている背景には、「分配可能利益」の計算において虚偽の利益を防ぐ役割があります。時価主義では、未実現の利益が計上されるため、企業は配当に実際には得ていない利益を支払うリスクが生じます。アメリカの大企業エンロンの倒産事件は、この問題を浮き彫りにしました。エンロンは、実際には存在しない評価益を時価主義に基づいて報告し、虚偽の財務状況を示していました。
会計基準の変化
現代の会計基準においても、取得原価主義は重要な役割を担っています。国際会計基準（IFRS）では、未実現利得の配当は認められないというルールがあるため、実質的な利益に基づいた配当の実現が図られています。しかし、取得原価主義ではデリバティブなどの金融商品がゼロとして扱われるため、企業の財務内容が正確には表れないケースが増加しています。
含み損・含み益の問題
取得原価主義では、資産に含み益が存在するため、会社の実際の財政状態が必ずしも財務諸表に正確に反映されません。含み損が発生した場合の評価基準については、いくつかの選択肢があります。基本的に有価証券や棚卸資産は原価法か低価法に基づき評価されますが、市場の状況が急変した場合には適切な評価が難しくなります。
このような柔軟性がある一方で、複数の企業間で比較が難しく、任意の会計報告が可能となるという問題点も抱えています。さらに、安定した貨幣価値が求められるため、急激なインフレーションの影響を受けやすい点も挙げられます。
棚卸資産の評価基準
は2008年以降、棚卸資産については「棚卸資産の評価に関する会計基準」が適用され、特にトレーディング目的で保有する棚卸資産は市場価格で評価されることが求められています。通常の販売目的の棚卸資産については、低価法に基づく評価の下、収益性が低下した際に正味売却価額での再評価が義務付けられています。
このように取得原価主義には、その適用にあたってのメリットとともに、財務情報の透明性を損なうリスクも満載です。これを踏まえた適切な会計処理が求められています。
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