受難曲

受難曲について

受難曲（じゅなんきょく、英: Passion）は、イエス・キリストの受難を描いた音楽作品であり、主に新約聖書の4つの福音書に基づいています。キリスト教の聖週間において非常に重要な典礼形式であり、古くからの宗教的伝統に根ざしています。

受難曲の起源

受難曲の歴史は古く、聖週間の典礼においてイエスの受難を想起するための朗唱が行われていました。最も古い記録の一つは、381年から384年のエゲリアによるエルサレム巡礼の際の礼拝の様子です。その後、10世紀以降には、ローマ・カトリック教会がマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの各福音書から受難物語を選定し、朗唱するようになりました。音楽の形式も固定化され、特定の記譜方法が用いられるようになりました。

13世紀から14世紀にかけては、受難曲の朗唱に演劇的要素が加わり、複数の聖職者が役割を分担して歌うスタイルが取られるようになります。これにより、教会の礼拝を越えて演じられることも多くなり、民間に広がるきっかけとなりました。

多声受難曲の成立

15世紀に入ると、ルネサンスの影響を受けて、対位法を取り入れた多声の受難曲が数多く現れました。これには主に「応唱受難曲」と「通作受難曲」の二つがあり、前者は部分ごとの対位法を用い、後者は全体にわたり対位法が施されています。最古の応唱受難曲には『ルカ受難曲』があり、多声の精緻さが特徴です。

16世紀に入ると、イタリアで非常に多くの受難曲が作曲され、そのほとんどが応唱受難曲として仕上げられました。カトリック圏内では、感情を強調するために特定の言葉が多声で歌われるなど、独自のスタイルが確立されました。

プロテスタント受難曲の発展

ルター派圏内では、16世紀から17世紀にかけて多くの受難曲が作曲され、特にハインリヒ・シュッツの作品が際立っています。彼の受難曲は、独自の表現力に富み、言葉と音楽の調和を追求した革新的な作品です。

オラトリオ受難曲

17世紀後半からは「オラトリオ受難曲」という形式が登場し、器楽や自由曲が加えられるなどの発展が見られました。この新しい形が登場することで、オペラ的な要素が取り入れられるようになりました。特に、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品はその代表格であり、18世紀にも大きな影響を与えました。

18世紀以降の受難曲

18世紀には新たに詩作された受難オラトリオが流行し、既存の福音書に基づく作品の作曲は徐々に減少しました。19世紀に入ると、教会音楽の再評価がなされ、現代に至っても多くの音楽家が受難曲を手掛ける姿が見られます。

結論

受難曲は、イエス・キリストの受難を題材とした音楽の集大成であり、その発展には宗教音楽の変遷が色濃く反映されています。現代においても新たな形で受難曲は創作され続けており、聖週間の大切な儀式として重要な役割を果たしています。

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