口羽駅

口羽駅（くちばえき）：三江線が刻んだ記憶

口羽駅は、島根県邑智郡邑南町下口羽に位置していた、西日本旅客鉄道（JR西日本）三江線の駅でした。2018年4月1日の三江線全線廃止に伴い、その歴史に幕を閉じました。電報略号は「チハ」。広島県との県境に近い場所にありましたが、江の川からはやや離れた場所に位置していました。

概要

かつては、三次駅 - 口羽駅間を結ぶ列車が午後に1往復運行されていましたが、廃止直前の2018年3月17日からは江津駅まで延長運転されるようになりました。これは、廃止を前にした利用客へのサービスの一環だったのかもしれません。

口羽駅周辺は、1950年代初頭には口羽木炭の一大生産地として栄え、貨物輸送によるさらなる増産が期待されていました。しかし、駅が開通する頃にはエネルギー革命の影響で木炭需要が激減し、貨物列車が発着することは一度もありませんでした。時代の流れは、地方の小さな駅にも大きな影響を与えたのです。また、過疎化も進み、駅周辺の人口は大きく減少していました。

1975年に三江線が全線開通し、口羽駅は中間駅となりました。しかし、開業直後はCTC（列車集中制御装置）や信号設備などの関連工事の遅れから、全線を直通する列車の設定ができず、しばらくの間は口羽駅で運行系統が分断されていました。この期間、口羽駅は三次駅方面からの1日7往復の普通列車と、浜原駅方面からの1日4往復の普通列車の乗り換え駅として機能し、一時的に賑わいを見せました。

歴史

1963年（昭和38年）6月30日：三江南線が式敷駅から延伸し、その終着駅として開業。当時は旅客営業のみを行う無人駅でした。
1975年（昭和50年）8月31日：口羽駅から三江北線浜原駅までの区間が開業。これにより、江津駅 - 浜原駅 - 口羽駅 - 三次駅間が現行の「三江線」となり、その途中駅となりました。
1976年（昭和51年）2月頃：ホーム上に屋根を設置する工事が行われ、利用客の利便性が向上しました。
1987年（昭和62年）4月1日：国鉄分割民営化により、西日本旅客鉄道（JR西日本）の駅となりました。
2001年（平成13年）3月3日：口羽駅で折り返す夜遅くの便が廃止され、三次駅からの列車は1日5往復に減便されました。
2018年（平成30年）3月17日：口羽駅折り返しの列車の設定が完全になくなりました。
2018年（平成30年）4月1日：三江線の全線廃止に伴い、口羽駅も廃駅となりました。
2019年（平成31年）3月4日：地元自治体の島根県邑智郡邑南町が、駅の周辺施設の取得を表明。人力トロッコ車両を試験運行するなど、駅の再活用に向けた動きが見られました。
2021年（令和3年）4月1日：邑南町が町内の口羽駅・宇都井駅を「邑南町三江線鉄道公園」として整備し、新たな観光スポットとして生まれ変わりました。

駅構造

口羽駅は島式ホーム1面2線を有する地上駅で、列車の交換設備がありました。廃止時は浜田鉄道部が管理する無人駅で、駅舎は待合所として機能していました。ホームへは、三次寄りの下り線側に設置された構内踏切を通じて出入りする構造でした。自動券売機などの設備はありませんでした。

2019年6月時点でも、旧駅舎やホームなどの施設、駅周辺の線路、駅舎正面の駅名看板は残されていましたが、安全上の理由からホームは鉄パイプやロープで囲われており、立ち入ることはできませんでした。また、ホーム上の駅名板は取り外されていました。

2021年4月1日、「邑南町三江線鉄道公園」として整備されたことで、旧駅および1.2キロメートルの区間の線路に自由に入ることができるようになりました。

地名の由来

「口羽」という地名は古く、1223年（貞応2年）の記録にも見られます。出羽川の下流の入口という意味に由来すると言われています。

駅周辺

口羽駅周辺には、以下の施設があります。

口羽郵便局：旧郵便局（1937年竣工）は現所在地の隣にあり、建物は現存しています。
山陰合同銀行口羽出張所：2020年に店舗再編が行われ、現在は大田支店口羽ATM出張所として営業しています。
広島県道・島根県道4号甲田作木線
島根県道・広島県道7号浜田作木線
広島県道・島根県道112号三次江津線
島根県道294号邑南美郷線
邑南町営バス（おおなんバス）「口羽駅」停留所

その他

三江線活性化協議会により、口羽駅には石見神楽の演目名にちなんだ「神降し」という愛称が付けられていました。これは、出羽川の流域の入口を意味する「口羽」という地名と、神楽奉納の入り口となる儀式である「神降し」との連想から生まれたものです。

口羽駅は、三江線の歴史とともに、地域の記憶を刻み込んだ駅でした。廃線後も、鉄道公園としてその姿を残し、訪れる人々に往時の面影を伝えています。

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