古川ロッパ昭和日記

古川ロッパ昭和日記の概要

『古川ロッパ昭和日記』（ふるかわロッパしょうわにっき）は、昭和期に活躍した日本の喜劇俳優、古川ロッパ（1903年 - 1961年）が記した日記です。1987年に放送作家の滝大作の監修のもと、晶文社から発行されました。この日記は、古川ロッパの全貌を知る上で非常に貴重な資料となっています。

日記の内容

本書には、1934年から1960年12月25日までの記録が収められており、彼の個人的な日常生活に加えて、美食の記録、映画や演劇の感想、読書の印象、さらには時勢についての考えや批評など、多岐にわたる項目が詳細に記述されています。特に昭和の戦前から戦後にかけての時代風俗を知る上での貴重な証言となっている点は見逃せません。

ロッパはその日の出来事を短いメモとしてノートに記録し、翌朝にその内容をもとに日記へとまとめるスタイルを取っていました。情報量が多くなるにしたがって、彼は万年筆を裏返し、小さな字で情報を詰め込み、余白に追記する独自の方法を築き上げました。初めは市販の日記帳を使っていましたが、戦時中の紙不足から大学ノートに移行し、逆にそのことで「のびのびした日記気分」が拡がったといいます。このため、1945年度以降の日記の記述は飛躍的に増え、その記録量は400字詰め原稿用紙で3万枚を超えるとされています。

時代の変化とロッパの心情

日記の内容は、古川ロッパのキャリアや時代背景によって大きく変化するのも特徴的です。特に1934年から1941年にかけては、彼の表現活動が最も充実していた時期であり、ポジティブな姿勢が色濃く反映されています。

1942年から1945年7月までの間は、戦時下のストレスや苦労が見られ、自身の芸の確立に苦しむ様子が描かれています。時局への批判や自己激励の言葉、美食や麻雀に耽ることで現実から逃避しようとする姿が多く見られるのもこの時期の特徴です。

1945年9月以降は、状況が厳しくなり、日記には愚痴や病気に関する悲惨な記録が増えていきます。それでも、彼は日記に対する愛着を失わず、「日記は俺の情熱、そして業」と記すほどでした。1945年には日記を戦火から守るために防空壕に保管するなど、その重要性を強く感じていたようです。

日記の発表経緯

ロッパは生前に食に関する部分をまとめて『ロッパの悲食記』として1959年に出版しましたが、その他の部分は生涯未公開でした。その後、1982年にNHKのプロデューサー滝大作が彼の日記を再発見し、1987年には「戦前編」「戦中編」「戦後編」「晩年編」の四巻として発表されました。ただし、その内容は膨大な量のため、特に戦後編と晩年編の収録は内容の1割から2割程度にとどまっています。

紛失した日記

残念ながら、1935年の部分や終戦前後の多くの内容が紛失しており、特に1935年は古川ロッパが東京丸の内に進出した重要な年の記録が含まれていたため、非常に悔やまれています。紛失の理由としては、晩年のロッパが何度も読み返すうちに失ってしまった部分や、知人に貸した大学ノートの記録が戻らなかったことなどがあります。2024年8月には行方不明だった終戦前後の日記が早稲田大学演劇博物館で発見されたと報じられ、今後の展開が注目されています。

このように、『古川ロッパ昭和日記』は、日本の昭和期の文化や社会を垣間見る貴重な証言であり、ひとりの芸人の心情と歴史を深く理解するための重要な資料といえるでしょう。

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