古田武彦

古田武彦：古代史に独自の光を当てた異端の学者

古田武彦（1926年8月8日 - 2015年10月14日）は、日本の思想史家、古代史家であり、昭和薬科大学の教授を務めました。専門は日本中世思想史、特に親鸞の研究で知られていますが、文献史学を用いた独特な古代史研究でも著名です。

生涯

福島県喜多方市に生まれた古田は、父親の転勤に伴い広島県で育ちました。旧制広島高校を経て、東北帝国大学に進学し、日本思想史を学びました。大学卒業後は公立高校の教員として、長野、兵庫、京都の各地で国語や社会科を教えながら、親鸞に関する研究を続けました。

文献史学研究への転身

1969年、『史学雑誌』に「邪馬壹国説」を発表したことを契機に、古田は教職を辞し、研究に専念します。この説は、従来の「邪馬台国」ではなく「邪馬壹国」という表記が正しいとし、その所在地を博多湾岸とするものでした。また、九州王朝説を提唱し、記紀の内容を部分的に信用しながらも、学界の通説に再検討を迫る独自の古代史像を提示しました。この中には、神武天皇実在説や好太王碑の改竄否定説など、学界でタブー視されるような説も含まれています。

古田の論文は、当初こそ学会の注目を集め、マスコミにも取り上げられることもありましたが、その大胆な仮説は多くの研究者との論争を引き起こしました。しかし、その一方で多くの支持者を集め、「市民の古代研究会」という読者の会も結成されました。親鸞研究においても、偽書説が定説であった『三夢記』の真作説を唱え、学界に論争を巻き起こしました。

『東日流外三郡誌』研究と晩年

古田は、『東日流外三郡誌』などの和田家文書に出会い、その内容を肯定的に評価しました。しかし、同書に対して偽書説が強まると、その所蔵者である和田喜八郎を支持する姿勢を貫き、大学の紀要にも論文を掲載しました。この一件が、「市民の古代研究会」の分裂を招き、古田の支持者の一部が離れることになりました。1996年に昭和薬科大学を定年退職した後も、執筆や講演活動を続け、雑誌『なかった 真実の歴史学』を創刊するなど、精力的に活動しました。

2007年には『東日流外三郡誌』の「寛政原本」を発見したと主張しましたが、その真偽については論争が続いています。

古田史学の特徴

古田の研究スタイルは、原文に忠実な文献解読を重視し、歴史資料の校訂や原文改定を批判しました。また、「神武天皇実在説」を唱え、記紀の記述を後世の創作として全否定しない点では「釈古派」の側面も持っていました。しかし、その資料の扱いに恣意性があるとの批判も受けていました。

古田史学の評価

古田の説は、その独特な文体と論理構造から、他分野の研究者や一般の読者から支持を集めました。特に、大和朝廷中心の古代史観に異を唱え、多元的な古代史観を提示したことは、その大きな貢献とされています。しかし、『東日流外三郡誌』を支持したことで、その研究への信頼性が揺らぎ、一時期のブームは過ぎ去りました。それでもなお、広開土王碑文改竄説を否定したことや、親鸞研究での評価は高く、今もなお多くの人々に影響を与えています。

主な仮説

邪馬壹国説: 『魏志倭人伝』に記された国名を「邪馬壹国」とし、博多湾岸に存在したとする説。
短里説: 『魏志倭人伝』で使用された里は、現在の里よりも短い短里であったとする説。
九州王朝説: 倭国は九州に存在した王朝であり、白村江の戦いによって衰退し、近畿の皇室に吸収されたとする説。
多元的古代史観: 日本列島各地に王権が存在したとする説。
好太王碑改竄否定説: 酒匂景信が持ち帰った好太王碑の拓本は改竄されていなかったとする説。
『東日流外三郡誌』肯定説: 『東日流外三郡誌』を偽書ではなく、歴史資料として扱う説。

思想

古田の思想は、既存の歴史観を批判的に捉え、多元的な視点を重視するものでした。また、大東亜戦争を「歴史上、実在した名称」として用いるなど、独自の歴史観を持っていました。

おわりに

古田武彦は、その大胆な仮説と独特な研究スタイルで、古代史研究に大きな足跡を残しました。その学説は賛否両論ありますが、その存在は、歴史を多角的に捉えることの重要性を示唆し続けています。

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