史学雑誌

『史学雑誌』：日本の歴史学を牽引する学術誌

『史学雑誌』は、日本の歴史学研究において最も権威のある月刊誌の1つとして知られています。史学会が発行しており、明治時代後期に創刊されて以来、日本の歴史研究の進展を長年にわたって記録し、その発展に貢献してきました。本稿では『史学雑誌』の歴史、創刊までの経緯、そしてその特徴について詳しく見ていきます。

創刊への道：帝国大学と西洋史学の影響

『史学雑誌』の起源は、1889年（明治22年）に創刊された『史学会雑誌』に遡ります。その背景には、1886年の帝国大学令公布による帝国大学文科大学（現在の東京大学文学部・大学院人文社会系研究科）の設立があります。文科大学には1887年に史学科が設置され、西洋史を中心とした研究が開始されました。翌年には修史事業が帝国大学に移管され、日本の歴史研究も本格的にアカデミズムに取り込まれていきます。

そして1889年、文科大学に国史科が創設されると、日本の歴史研究はアカデミアにおいて明確な地位を獲得することになります。同年に、ドイツの著名な歴史家、レオポルト・フォン・ランケの弟子であるルートヴィヒ・リースの指導の下、史学会が設立され、『史学会雑誌』が創刊されました。リースの指導は、日本の歴史学研究に西洋の近代的な歴史学の方法論を取り入れる上で大きな役割を果たしたと考えられています。2年後、『史学会雑誌』は『史学雑誌』と改名され、現在に至ります。

『史学雑誌』の特徴：「回顧と展望」の意義

『史学雑誌』の大きな特徴として挙げられるのが、毎年第5号に掲載される「回顧と展望」です。これは、前年に発表された歴史学研究の中から、各時代、地域、国を問わず、重要な成果を選び、執筆者が詳細な批評を行うというものです。日本の研究はもちろんのこと、海外の研究動向も網羅的に取り上げており、日本の歴史学研究が国際的な文脈の中でどのように展開してきたのかを理解する上で貴重な情報源となっています。

「回顧と展望」は、単なる研究成果のレビューに留まりません。執筆者による鋭い分析と評価を通して、歴史学研究の潮流、その発展過程、そして今後の課題などが浮き彫りにされます。そのため、歴史学研究者のみならず、歴史学史を研究する者にとっても貴重な資料であり、日本の歴史学研究全体の流れを理解する上で、極めて重要な役割を果たしています。

日本の近代歴史学の歩みとともに

『史学雑誌』は、明治時代後期から現在まで、日本の歴史学研究の最前線を伝え続けてきました。その発展の歴史は、日本の近代歴史学の歩みそのものと言えるでしょう。数多くの重要な論文が掲載されてきただけでなく、「回顧と展望」のような特徴的な企画を通じて、日本の歴史学研究の現状と未来を提示し続けてきたのです。これからも、『史学雑誌』が日本の歴史学研究の中核として、その役割を果たし続けることを期待しています。

参考文献

史学会『史学会百年小史』山川出版社、1989年
永原慶二『20世紀日本の歴史学』吉川弘文館、2003年
史学会編『歴史学の最前線』東京大学出版会、2004年
史学会編『歴史の風』刀水書房、2007年

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