古都保存協力税

古都保存協力税（ことほぞんきょうりょくぜい）

古都税とも呼ばれる古都保存協力税は、京都市が文化財の保存と整備を目的として、1985年（昭和60年）から1988年（昭和63年）までの期間に導入・実施した法定外普通税です。この税は、特定の寺社が公開する文化財を鑑賞する来訪者に対して課され、その鑑賞者一人あたり50円が徴収されました。

税の仕組みと背景

この税制は、地方自治体が法定外税として独自の税目を設けることができる地方税法の規定に基づき、「京都市古都保存協力税条例」によって定められました。徴収方法は、文化財を公開している約40の寺社が、拝観料を受け取る際に税額を上乗せして来訪者から預かり、これを京都市に納めるという、いわゆる特別徴収の形がとられました。

京都市は、多くの歴史的文化遺産を有する一方で、学園都市や観光都市としての側面も強く持っています。特に神社仏閣のような宗教法人が所有する不動産は、礼拝施設等として利用される場合、固定資産税が非課税となることが多いため、市税収入における固定資産税の割合が他の都市とは異なる構造にあります。

古都保存協力税の導入に先立ち、京都市は過去にも観光や文化財を対象とした類似の税を設けた経験があります。例えば、1956年（昭和31年）には文化観光施設税（文観税）が実施され、この税収は京都会館建設の財源の一部となりました。この税が時限立法で終了した後、1964年（昭和39年）にも文化保存特別税が制定されましたが、この際には条例反対の寺社側との間で、将来的に同種の税を新設または延長しないという内容の覚書が当時の市長との間で交わされていたと記録されています。古都保存協力税の導入時、今川正彦市長は、この税が京都市民ではなく、文化財を鑑賞する来訪者に文化財保護への協力をお願いする性質のものであると説明しました。

古都税騒動の発生と経緯

古都保存協力税は、その構想段階から市と寺社との間に大きな対立を生じさせました。この一連の出来事は「古都税騒動」と呼ばれ、国外では「テンプル・ストライキ」としても報道されました。寺社側は、この税が過去の覚書に反すること、拝観料への課税が信教の自由を侵害する可能性があること、また、市外からの来訪者に市の財政負担を求めることが応益の原則に反するのではないかといった理由から強く反対しました。

反対運動は、条例の無効確認を求める訴訟提起や、市内の主要寺院による拝観停止という形で展開されました。1983年（昭和58年）1月に条例が可決された後も対立は続き、税の施行が迫った1985年（昭和60年）7月には、京都仏教会に加盟する一部寺院が実際に拝観停止に踏み切りました（第一次拝観停止）。その後、あっせん会議による仲介や、複数回にわたる拝観停止とその解除が繰り返されました。この過程で、寺社側の交渉窓口を巡る仏教会内部の意見対立や、市長と寺社代表との交渉内容を録音したとされるテープの公開といった混乱も見られました。結局、双方の溝は埋まらず、京都市は1988年（昭和63年）3月31日をもって古都保存協力税を廃止することを決定しました。

廃止後の再議論

古都税は短期間で廃止されて以降、長らく過去の出来事として扱われてきました。しかし、近年、京都市を訪れる観光客の増加に伴う混雑（オーバーツーリズム）が深刻化する中で、その対策や、文化財を含む観光資源の維持・管理のための新たな財源確保の必要性が議論されるようになっています。こうした背景から、過去の古都税のような税制を再導入すべきだという意見が一部で提唱されており、2024年（令和6年）の京都市長選挙においても、特定の候補者が古都税に類する課税構想を公約として掲げるなど、再びその是非が問われる機会が見られるようになっています。

古都保存協力税を巡る騒動は、地方自治体の財源確保策と、文化、宗教、観光といった多様な要素が複雑に絡み合った事例として、日本の地方税制の歴史において特筆される出来事の一つとなっています。

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