召命

召命（しょうめい）とは

召命（ラテン語: vocatio）とは、キリスト教において、神の恵みによって神に呼び出されることを指す言葉です。聖書に頻繁に登場し、神と人との関係における重要な概念として扱われています。

召命の概要

現代のカトリック教会では、召命は狭義と広義の二つの意味で理解されています。

狭義の召命: 神によって特別に選ばれ、司祭、助祭、修道士・修道女といった聖職者や修道者として神に献身する使命を意味します。この召命を受けた者は、教区または修道会に所属し、教会のために奉仕します。
広義の召命: 全てのカトリック信徒は、洗礼と堅信によって、教会から託された「使徒職」という使命を与えられているとされます。これは、聖職者や修道者でなくても、それぞれの場所で福音を広めるという使命があるという考え方です。一般信徒も、聖体奉仕者や祭壇奉仕者などの奉仕職に就くことができ、これも広義の召命の一環とみなされます。

プロテスタント教会では、召命は主に二つの意味で用いられます。

calling: 神に献身し、伝道者、牧師、宣教師などの教会の奉仕者としての使命を意味します。
Vocation: 宗教改革以降の理解で、聖職以外の一般の職業においても、神の導きによって天職として働くことを意味します。

聖書における召命

旧約聖書において、最も重要な召命はイスラエルの民の召命です。イスラエルはエジプトから解放され、神の民として選ばれました。これは、神との契約関係に基づくものです。アブラハム、モーセ、サムエル、エレミヤ、イザヤといった旧約聖書の人物たちも、神から召命を受けた経験を持っています。

新約聖書では、イエス・キリストにおける召命が中心となります。また、使徒職などの特別な職務への召命も語られています。

キリスト教の教理における召命

教理的には、召命は救済の順序における最初の神の働きと位置づけられます。召命は、外的召命（普遍的召命）と内的召命（有効召命）に分けられます。

外的召命: 全ての人々に対して、福音を宣べ伝えることを通して神が働きかけることです。これは、人種、民族、社会的地位に関わらず、全ての人に開かれています。
内的召命: 外的召命が、聖霊の働きを通して、人を救いに導くことです。新約聖書における召命は、ほとんどが内的召命と関連しています。

クリスチャンの召命の例として、元牧師の八巻正治氏が、知的障害を持つ義弟を養育する際に、それが神からの召命であると確信したという話があります。これは、召命が必ずしも教会での奉仕に限らず、日常生活における責任や決断の中にも現れることを示しています。

倫理的な観点からの召命

倫理的な観点から見ると、召命は職業倫理と深く結びついています。中世ヨーロッパでは、職業は聖と俗に二分され、聖職者のみが召命を受けているとされていました。しかし、宗教改革者たちは、この区別を否定し、全ての職業を神からの召命と捉えるようになりました。

ルターをはじめとする宗教改革者たちは、コリント人への手紙第一7章20節にある「クレーシス」という言葉を「職業」と同一視し、全ての仕事が神から与えられた使命であると説きました。

まとめ

召命は、神が人々に与える多様な呼びかけであり、キリスト教信仰の中核をなす概念です。聖職者としての奉仕だけでなく、日常生活における責任や職業を通して、神の御旨を行うことが求められています。



参考文献
牧田吉和『新キリスト教辞典』いのちのことば社、1991年

関連項目
聖マタイの召命

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