司馬法

司馬法（しばほう）

『司馬法』は、古代中国の兵法書であり、司馬穰苴によって執筆されたと考えられています。この書物は「武経七書」の一つに数えられ、兵法の重要なテキストとして位置づけられています。歴史的には、周代における軍事管理を司る官名が「司馬」であったことが、この名称の由来です。

背景

著者である司馬穰苴は、斉国の出身で「田」の姓を持ち、斉の景公に仕えて大司馬に任命されました。彼の名前は、彼がこの地位にあることに由来しています。また、斉国自体は、兵法の創始者として知られる太公望によって設立された国であり、春秋戦国時代には兵法やさまざまな学問が盛んに研究されていました。同じく、戦国時代に生まれた有名な兵法書『孫子』の著者も斉国の人間です。

『司馬法』が成立した背景には、斉の威王が古くから受け継がれてきた兵法を駆使し、国を強化したという出来事があったとされます。このことから、兵法の重要性が再認識され、家臣たちに古代の兵法を研究させることで、司馬穰苴の兵法を加えた新たな兵法書が編纂されたという見方が有力です。

内容

『司馬法』はかつて155篇から成るとされていましたが、現在は『仁本』『天子之義』『定爵』『厳位』『用衆』の5篇のみが現存しています。歴史家の司馬遷は、この書について「その内容は広範で深淵であり、三代（夏・殷・周）の戦争についてこれほど詳しく書かれたものは他にない」と賞賛しています。現存する部分を読むと、単純な兵法のテクニックだけでなく、戦争における儀礼やマナーに関する記述が多く見受けられます。

たとえば、戦争の礼儀について、文中には「古の時代には、負けた敵を追う際には、百歩までしか追わなかった。撤退する敵に対しても三舎までしか追わなかった」といった記述があります。これは、敵への対応にも一定の礼儀や温情が求められていたことを示しています。

また、戦闘における実践的なアドバイスも含まれており、「戦いの際には、敵より先に動くと疲労し、遅れれば恐怖に襲われる。休むと怠けるし、休まなければ疲弊する。休みが長くなると、再び恐怖感が出てくる」といった実戦に役立つ洞察も提供されています。

さらに、敵対する相手に対しての情けの重要性を説く部分もあり、「敵の老幼を見極め、傷つけず援助して帰らせるべきである」「若者であっても、抗う意思がないなら敵対する必要はない」「敵が傷ついた場合には薬で治して送り返すべき」など、戦争を通じても人道性を重んじる考え方を示しています。

参考文献

この兵法書に関する現代の刊行物として、守屋洋、守屋淳による『司馬法　尉繚子　李衛公問対』があり、プレジデント社から1999年に初版が出され、2014年に新版が出版されました。ISBNは483342097Xです。

『司馬法』は古代中国の兵法の中心的な存在であり、戦争の技術だけでなく、儀礼や倫理に対する深い理解を求める価値ある文献として、今もなお多くの人々に読み継がれています。

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