合奏協奏曲集 作品3 (ヘンデル)

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルによる『合奏協奏曲集 作品3』（Concerti grossi op.3、HWV 312-317）は、1734年にロンドンの出版者、ジョン・ウォルシュ（父）によって刊行された全6曲からなる協奏曲集です。

この作品集の成立には、ヘンデルのもう一つの有名な合奏協奏曲集である作品6（1740年出版）とは異なる背景があります。作品6がヘンデル自身によって計画的に作曲されたのに対し、作品3はウォルシュがヘンデルの既存の楽曲を、作曲者本人の許諾を得ずにまとめて出版したものです。実際、初版に含まれていた第4番はヘンデル自身の作品ですらなく、同年中に出版された改訂版で別の曲に差し替えられています。このような経緯のため、作品集全体としての統一性は必ずしも高くなく、曲ごとの楽器編成や楽章構成には大きな多様性が見られます。

しかし、この多様性こそが作品3の魅力の一つとなっています。弦楽器を中心とする編成が基本の作品6に対し、作品3ではオーボエやファゴット、リコーダーといった木管楽器に加え、一部の曲ではオルガンも用いられており、より多彩で豊かな響きを持っています。収録されている楽曲は、主に1710年代に作曲されたものか、あるいはその頃の素材を後に編曲したものが中心です。ヘンデルの既成作品、例えばオラトリオ『時と悟りの勝利』（第1番の一部）、『ブロッケス受難曲』（第2番）、オペラ『オットーネ』（第6番）、そして『シャンドス・アンセム』や『シャンドス・テ・デウム』（第3番と第5番）からの音楽が随所に用いられています。出版に先立ち独立した楽曲として存在していたのは第1、第2、第4番のみで、残りの曲は出版者が既存の素材、特に『シャンドス・アンセム』の音楽を中心に組み合わせて協奏曲形式に仕立てたものと考えられています。

各曲の概要

第1番 変ロ長調 HWV 312

オーボエ2本、ファゴット2本、リコーダー2本（第2楽章のみ）、ヴァイオリン2部、ヴィオラ2部、通奏低音という編成。急-緩-急の3楽章構成で、第1楽章では2本のオーボエとヴァイオリンが独奏楽器として活躍します。続く第2楽章はリコーダーとファゴットで始まり、独奏オーボエが情感豊かな旋律を奏で、最終楽章はト短調に転じます。

第2番 変ロ長調 HWV 313

オーボエ2本、独奏ヴァイオリン2本、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ2本、通奏低音。複数の楽章を持ち、組曲的な性格が強い曲で、『ブロッケス受難曲』の序曲にいくつかの楽章が追加された形と考えられます。第1楽章は3拍子で独奏ヴァイオリンの細かい動きが特徴的。短調の第2楽章では、2本のチェロの上でオーボエが旋律を歌います。第3楽章はフーガ、第4楽章はメヌエット風の舞曲、最終楽章はブレーとその変奏曲となっています。

第3番 ト長調 HWV 314

フラウト・トラヴェルソ（またはオーボエ）、独奏ヴァイオリン、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、通奏低音。ごく短い序奏に続いて、独奏楽器が活躍する明るいフーガが現れます。第2楽章は短調の短い緩徐楽章。最終楽章は再び輝かしいフーガで閉じられます。最初の2楽章は『シャンドス・アンセム』第7番や『シャンドス・テ・デウム』からの音楽を、最終楽章はフーガ HWV 606の素材を利用しています。

第4番 ヘ長調 HWV 315

オーボエ2本、ファゴット、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、通奏低音。この曲は1716年に作曲され、同年6月にオペラ『アマディージ』の幕間音楽として初演されたものです。第1楽章は管弦楽全体による華やかなフランス風序曲。第2楽章ではオーボエの独奏が中心的な役割を担います。第3楽章は短調のフーガ。続く第4楽章は全奏によるメヌエットで、中間部（トリオ）ではヴィオラとファゴットが主旋律を奏でます。

第5番 ニ短調 HWV 316

オーボエ2本、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、通奏低音。5つの楽章を持ち、『シャンドス・アンセム』第2番の序曲として作曲された2楽章のソナタに他の楽章が加えられたものと考えられています。この曲には特定の独奏楽器はなく、全体がコンチェルト・グロッソ形式の「全奏」によって進められます。三連符が多く用いられる短い第1楽章に続き、第2楽章はフーガ。緩徐楽章を挟み、第4楽章は再び対位法的な書法が特徴です。最終楽章は速いテンポの音楽で、冒頭に戻るダ・カーポ形式が用いられています。

第6番 ニ長調 HWV 317

オーボエ2本、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、ファゴット、チェロ、オルガン。2つの楽章から構成され、第1楽章はおそらく1726年にオペラ『オットーネ』中のシンフォニアとして書かれたものと考えられます。弦楽の序奏に続き、2本のオーボエによるソロ的なパッセージが登場し、オーボエ2本とファゴットによる三重奏部分が印象的です。ニ短調の終楽章は、オルガン協奏曲集 作品7第4番の終楽章と共通しており、オルガンが独奏楽器として活躍します。この旋律は、オペラ『忠実な羊飼い』初稿の序曲やハープシコード組曲第1集第3番でも用いられています。

このように、特殊な成立経緯を持つ作品集ではありますが、ヘンデルの多彩な音楽語法が凝縮されており、特に管楽器の生き生きとした響きを味わうことができる聴きごたえのある作品群です。

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