合衆国長老教会

合衆国長老教会（PCUS）

合衆国長老教会（Presbyterian Church in the United States、略称：PCUS）は、「南長老教会」の通称でも知られる、アメリカ合衆国にかつて存在した長老派教会の一派です。その歴史は1861年から1983年まで続きました。

この教派が成立したのは、南北戦争（1861年-1865年）という歴史的な出来事のさなかでした。南北戦争はアメリカ合衆国の政治的な分裂を招きましたが、それはキリスト教会にも影響を与えました。戦時下、アメリカ合衆国長老教会（PCUSA）は北部と南部に分かれ、PCUSは南部連合の地域を主な活動範囲とする教会として組織されました。

設立当初のPCUSは、伝統的な長老派教会の教義に忠実な保守的な立場をとっていました。具体的には、ウェストミンスター信仰告白を教会の基本的な規準として受け入れ、改革派神学の中心的な教えであるカルヴァン主義を強く支持していました。また、保守的な神学潮流として知られるプリンストン神学の影響も受けていました。

しかし、第二次世界大戦終結後、PCUSの神学傾向には変化が見られ始めました。徐々にリベラルな理解を採り入れるようになり、これは教派の性格に大きな影響を与えました。このリベラル化の顕著な結果の一つが、エキュメニズム、すなわち教派間の協力や一致を目指す運動への積極的な関与でした。

さらに、リベラル化は教会の内部構造や倫理的立場にも変化をもたらしました。たとえば、伝統的には男性に限られていた聖職（長老や執事）について、女性にもその門戸を開くようになりました。また、人工妊娠中絶に関しては、「プロ・チョイス」と呼ばれる、中絶を容認・擁護する立場を明確にしました。神学的な面では、聖書は言葉の一つ一つに至るまで神によって霊感された絶対的な権威を持つとする「十全言語霊感説（plenary verbal inspiration）」を否定しました。この聖書の権威に関する理解は、特に保守派にとっては教派のアイデンティティを左右する重要な試金石となる教えでした。

こうした教義や社会問題に関する立場の変化は、教派内部に緊張を生み出しました。特に、1960年代に高まった公民権運動を巡る議論も加わり、PCUSは内部でさらに複雑な分裂を経験し、最終的には三つの派に分かれることになりました。

その中で、リベラル化の動きに反対する保守派は、1973年にPCUSから離脱し、ディープサウスを中心に新たな教派「アメリカ長老教会（Presbyterian Church in America、略称：PCA）」を設立しました。この分離の理由として、保守派は「発展するリベラル神学が、イエス・キリストの神性と聖書の権威を否定したため」と公式に表明しています。

PCUSは、その後も活動を続けましたが、1983年に北部の主要な長老派教会であるユナイテッド長老教会（United Presbyterian Church in the United States of America）と合同し、現在のPresbyterian Church (U.S.A.)（PC(USA)）として再統合されました。これにより、南北戦争以来続いていた南北の長老派教会の分裂の歴史は、一区切りを迎え、PCUSとしての教派の歴史は幕を閉じたのです。

なお、PCUSの宣教団体である南長老ミッションは、1885年に日本へも宣教師を派遣しており、日本のキリスト教史にもその足跡を残しています。

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