吉井茂則

吉井茂則：近代日本の建築を支えた技師

吉井茂則（1857-1930）は、明治時代の日本建築史にその名を刻む建築家であり、逓信官僚です。特に、帝国議事堂（仮議事堂）の設計者として広く知られています。

生い立ちと修練

高知県士族の家に生まれた吉井は、後に大阪府の役人であった吉井正澄の養子となり、工学博士の道を歩みます。1871年、大蔵省に入省すると、イギリスへの留学を命じられ、ロンドンで建築を学びます。帰国後、工部大学校造家学科（現在の東京大学工学部建築学科）に進学し、1883年に卒業しました。卒業後は印刷局や陸軍省を経て、1887年には臨時建設局に勤務、議事堂建設に携わります。

帝国議事堂とその後

臨時建設局（後に内務省土木局）では、ドイツ人建築家アドルフ・ステヒミューラーと共同で、初代帝国議事堂（木造）の設計を担当しました。1890年に竣工した議事堂は、翌年焼失するという不幸に見舞われましたが、吉井は驚異的なスピードで60日という短期間に再建を成し遂げました。

その後、1892年に逓信技師となり、三橋四郎との共同設計で中京郵便局（旧京都郵便電信局、現中京郵便局）を手がけました（1902年竣工）。この間、1901年から1902年にかけて欧米を視察し、最新の建築技術や動向を調査しました。

鉄道建築への貢献

当時、鉄道局は逓信省に属していたため、吉井は鉄道技師を兼任し、数々の駅舎建設にも携わっています。代表的な作品として、嵯峨駅舎（後の嵯峨嵐山駅、2007年解体）が挙げられます。1908年に鉄道院が設立されると、鉄道院技師を兼任しました。

官庁建築と晩年

吉井は、数多くの官公庁舎の設計・建設にも深く関わりました。1907年の逓信省庁舎焼失後には、既存の高架橋を利用した仮庁舎を、わずか1年で建設。また、内田四郎との共同設計で逓信省本庁舎（1909年竣工）も手がけましたが、関東大震災で焼失しています。その他、大阪停車場（二代目、1899年竣工、1935年解体）などの設計にも参加しました。

1914年に退官した吉井は、正四位勲三等に叙せられました。彼の建築作品は、近代日本の建築史において重要な位置を占め、日本の近代化を支えた建築家のひとりとして高く評価されています。

家族と栄典

吉井の妻は、幕末期の海軍人、松岡磐吉の娘でした。彼は数々の栄典を受け、その功績は現在も高く評価されています。

参考文献

吉井茂則が残した設計図や建築に関する論文、そして彼に関する伝記や研究論文は、近代日本の建築史を研究する上で貴重な資料となっています。これらの資料から、彼の建築家としての力量、そして近代日本の発展に貢献した功績を改めて知ることができます。彼の建築物を通して、明治期の日本の技術力と建築文化を垣間見ることができるのです。

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